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ーユリと彼女ー
車が忙しなく行き交う道路のはじで、ユリは初めて彼女を見つけた。
もう冬が近く、夜は冷えてきたというのに、彼女は真っ白なノースリーブのワンピースを身につけていた。
虚な目で道路を見る彼女の目に興味を持ち、しばらくは呆けるように彼女を見ていた。
すると、彼女の視線がユリに流れた。
ジッと見ていたユリに、視線を向けるのはおかしいことではないだろう。
誰でも見られれば、見ている方向に目をやるし、見ている相手の意図を知ろうと、相手に視線を向けるだろう。
だが、彼女はユリが自分のことを見ていたことを気にして、ユリに目を向けたのではないことを、ユリは直感した。
彼女はユリに笑いかけた。
目が合った相手に対する愛想のそれと違った、
『ああ、やっと会えた』
そんな笑みだった。
まるで再会を喜ぶような、
待ち合わせに遅刻した友人に向けるような、
そんな笑みだった。
ユリは頭の中で、彼女と会ったことがあるか記憶を検証する。
腰まである長い黒髪を持ち、目は大きく、瑠璃色の瞳を持つ美少女。
一度会えば忘れることなんてなさそうな彼女の容貌に、ユリは会ったことがない人物だと結論づけた。
記憶の中にも該当するものはない。
彼女とユリは初対面であるはずだ。
彼女は車が行き交う道路の向こう側、つまりユリと彼女が立っている道の対面側を指差した。
ユリは首を傾げた。
彼女の口がゆっくりと動く、
『みて』
声は聞こえなかったが、何となく彼女が何を言いたいのかが分かった。
対面側の道には、ユリや彼女が立つ道と同じく何件かの店が立ち並んでいた。
どうやら彼女が指差しているのは、ちょうどユリと彼女の目の前にある『Lily of The Valley」とネオンの看板がかかった店のようだ。
あの店を指差す彼女の意図は…
ユリが次に彼女に視線を向けた時、彼女は忽然とそこから姿を消していた。
まるで、最初からそこにいなかったように。
ユリはもう一度、その店を見る。
ちょうど店の扉が開いて、派手な格好と化粧にまみれた女の子たちが数人、千鳥足で出てきた。
よろよろと心配なほど揺れながら、女の子たちは店から出て、その女の子たちの前に黒い車が止まる。
ドアが開くと、女の子たちは吸い寄せられるようにその車へと乗り込んでいく。
ただ単にBARで酔い潰れた女の子たちが迎えを呼んでいた車に乗り込んだだけのこと。
なのにユリの心臓の鼓動はだんだんと早くなっていく。
車に乗り込んだ女の子たちの最後尾の子が、泣いていたからだ。
車に乗っていく女の子たちの背中を見ながら、泣きながら少し震えているようにも見えた。
車に乗り込む一瞬のことだ。
見間違いかもしれない。
しかも女の子たちはどう見ても泥酔状態だった。
泥酔すると情緒不安定になる人は時たまいる。
ただの一コマの映像が、犯罪現場を目撃したような気分にさせてくる。
昨日読んだ推理小説のせいだ。
人身売買などが出てくる、少し重ためなミステリーだったので、変に今ある現状と結びつけたのだ。
歩き出そうとした瞬間に、彼女を思い出した。
『みて』
あれは自分の指差すほうを見てという意味だったろうか。
さっきの泣いていた女の子の顔が浮かんだ。
『みて』
『あそこで起きていることをみて』
彼女の呟きがそうとしか聞こえなくなっていた。
気付くと、店の前でいて、
店のドアに手をかけている。
嫌な予感しかしない。
彼女に暗示でも掛けられたのだろうか。
不安よりも好奇心のほうが優ってしまっている。
でも、
でも、
頭の中で葛藤していると、
「おい、」
後ろから声を掛けられた。
ユリが後ろを向くと、そこには青年が立っていた。
ユリと同い年くらいに見える青年だ。
20代そこそこの。
「入んの、入んねえの」
端正な顔立ちに似合わない荒っぽい口調に、ユリは驚きながらドアの前から離れた。
ユリの横を通り抜けるようにして、青年はドアに触れた。
そしてユリの顔をジッと見た。
「な、なに」
「…この店にあんたみたいなのが、なんか用なの?」
ユリの頭からつま先までを値踏みするような視線が通った。
ユリは、この都会に似合うような格好を好まない性格で、二年前に購入した着古したといっても過言でないTシャツに、高校生の時に購入したジーンズを履いていた。靴は高校生の時に運動靴として使用していたスニーカーだ。
ちなみに、数日前にやっとのことでデビューしたコンタクトは面倒くさいという理由で、今日は黒縁メガネの補助を受けている。
都会の、しかもみんなが華やぐ週末に、このような場所にスッピン(上記の格好をしている)女性がいるのは、ある意味で珍しい。
「つか、よくそんな格好でここに立っていられるな…最近はこういうのがウケんのか?」
確かに。
自分でも頷くしかない言葉だ。
周囲を通る女性たちは、みんなお洒落で華やかな格好をしている。
普通の神経なら、恥ずかしくて居た堪れなくなるだろうが、ユリにはそのような繊細な神経は残念なことに持ち合わせていない。
「んで?あんた、ここに何の用?」
さっきまで人を小馬鹿にしていた青年の雰囲気がガラリと変わる。
威圧感はさほど変化していないが、射抜くように目つきが鋭くなった。
「お酒を飲むの。そのためにこの店に入るのよ?」
本当の目的は違うが、初対面の男に一連のことを話す必要性は感じられなかった。
「…酒だけ飲みに、この店に?
あんた、田舎から出てきたのか?」
「まあ、そうだけど」
「ふーん…」
男は少々考える素振りを見せた。
早くそこをどけ。
という言葉を隠して、ユリはその男の隣を通り抜けようとするが、男はそれを察して、身体を横にずらして、ユリの前に立ちはだかる。
「ここは関係者以外、立ち入り禁止だ」
「そりゃそうだな」
突然の第三者の声に、ユリは勢いよく後ろを振り返ると、四十歳過ぎ五十歳手前のような年齢を感じさせる小太りで背の低いおじさんが立っていた。
古びてクタクタのスーツに、タバコを口に咥えている姿は、昨日読んだ推理小説に出てきた刑事のおじさんそのもので…
(そんなベタなことあるわけないか…)
「でも、刑事の俺は関係者って事でいいよな?」
(あ、めっちゃベタだ)
「や、山本のおっさん…」
(略すと山さん…ベタだなぁ…)
「そこのお嬢さんは関係者じゃないってことは、ここの店と関わりはないのか?」
「ねえよ、ただの田舎出の芋女だ」
「芋女って…」
少しイラついてきたユリは、男の足を踏んだ。
「いてえっ!」
男が足を上げる。
山本…通称(勝手にユリが名付けた)山さんは、ユリの行動に、少し目を丸くしたがその後に優しく微笑んだ。
「まあ、君みたいな子がこんな時間から何の理由もなしに酒場に入るようには見えないなぁ…この店には本当は何の目的で入ろうとしてるんだ?」
優しい顔立ちとは違った威圧的な口調での質問だった。
「女の子が、」
「ん?」
「女の子が泣いてたから、店から出てきた子が」
今ままで踏まれた足をさすっていた男の目がそれを聞いて、少し暗くなるのを感じた。
「その女の子って、青い瞳に黒髪の女の子か?」
歩道に立って、店を指差していた彼女の容姿が思い出される。
ユリが話している女の子とは別の少女であるが、歩道に立っていた彼女のことだとユリは察した。
「彼女は誰なんですか?」
山さんは何か知っている。
ユリはそう直感して、質問を続けた。
カランカラン
山さんの口が動いた瞬間に、店の扉が開く。
無機質な、ドアベルの音が響き、ユリはそちらに目を向けた。
「おい、あんたらいつまで店の、しかもドアの前でごちゃごちゃしてるつもりだ?客が入りづれえだろうが。ささっとどけ…ん?山本か?」
ドレットヘアーを後ろで結び、サングラスをかけたガタイのいい男が、店内から出てきた。
口ぶりからして、この店の店員か何かだろう。
よくもこのような人相の悪い人間を雇っているものだ。ヤクザ…いや、アメリカのドラマなどに出てくるギャングのような風貌をしている。
ユリは少し後ずさった。
「なんだ、求人広告でも見てきたのか」
男はユリに目を向けて、呟いた。
そして、山さんに目を向けた。
「刑事が何の用だ?なんかうちの店に関わるようなヤバイもんみっけたのか?」
「ああ、どえらいのが見つかりそうだよ。今日はその挨拶がわりにな、」
ドレッドヘアーの男の左の拳がぎゅうっと力がこめられるのを、ユリは見逃さなかった。
「翔、行くぞ。あんたもだ」
山さんがユリの腕を掴んだ。
ドレットヘアーの男の視線を感じながら、ユリは引きずられるように山さんに連れて行かれた。
少し歩いた先の路地裏で山さんが振り返った。
「たくっ…翔、お前はこの件に関わるなって言っただろうが。
そのうちに牧野に目をつけられるぞ。」
「もうあいつには顔を覚えられてるよ」
「最悪じゃねえか!この件にはもう首を突っ込むな!それと、そこのお嬢さん…えっと…」
「あ、藤崎です。藤崎ユリです。」
一瞬、山さんの目が大きく見開いたような気がした。
「藤崎さん、あんた、青い瞳に黒髪の女の子を見たんだろ?どこで見たんだ?」
「…お店の前の交差点で…」
「…そうか…」
「女の子が泣きながら店から出てきたって言ってたが、その女の子はどうしたんだよ。
青い瞳の女とはカンケーないのか?」
翔がユリに詰め寄った。
少し後退りをしながらユリは首を振る。
「その青い瞳の子に指さされた方を見たら、女の子達が黒い車に乗るところで…その1人の子が泣いてたのよ。」
ユリが状況を説明すると、翔の顔がさあっと青くなった。
「ほら!山さん、ちんたらしてたからこういうことにっ!」
「しっ!翔、黙れ」
山さんがユリに視線を向けると、翔は黙った。
どうやらこれ以上は、ユリが知ってしまうとマズイ話のようだ。
「まあ、えっと、ユリさん」
「は、はい…」
咳払いをして、山さんはユリに話しかけた。
「それ以上のことは何も知らないんだね?」
「はい…」
「ん。じゃあそれでいい。
もう何も知ろうとしなくていい。
今日あったことはもう忘れなさい。いいね?」
はい。
としか言いようがなかった。
山さんや翔の様子を見る限り、このことに関わるのは得策でないような気がした。
今日あったことは忘れようと素直に思った。
けれど頭には、今日出会った彼女の姿がありありと焼き付けられていた。
彼女のことを忘れるなんてできない。
「よし。じゃあ翔、この子送ってやれ」
「はあ!?」
「え!」
思わず、ユリと翔の声が重なった。
「こんな時間に女の子を一人で帰らせるわけにはいかん。こんなデクの棒でも弾除けくらいにはなんだろ。」
「どんだけ治安悪い都市に住んでんだよ。
日本で、んなこと起きねえよ。」
「そうですよ。しかもこんなのがそばにいるほうが危険ですよ。」
「ああ!?どういうことだよ!」
文句を言いつつ、署に帰っていく山さんの背中を見送りながら、翔はユリに住所を聞いてきた。
話している様子からして、怖い奴には到底思えない。
ユリは素直に住所を教えた。
「…お前、青色の目の女のこと、どこまで知ってんだよ。」
もう少しでユリの住むアパートに着く頃に、翔はそう聞いてきた。
今日会ったばかりだ。
ユリはそう答えた。
それが事実なのだから、それ以上答えることはできない。
だが、翔は質問をやめなかった。
「今日会ったばかりの女のために、わざわざ入る用事もねえ店に入ろうとしたのかよ」
翔の言うことは最もだ。
道で見かけただけの人間に対してユリは入れ込みすぎている。
それはユリ自身も感じていることだった。
おかしいと分かっている。
でも、あの笑顔が忘れられない。
懐かしむような、
会えたことに歓喜するようなあの笑顔が。
あの笑顔が頭にこびりついて離れない。
それに、彼女は確かにあの店を指差していた。
あの店を何故自分に指し示したのか、それもユリが彼女を気にしてしまう理由の一つだった。
あの行動に他意がないとは思えない。
黙るユリに翔は目を細めた。
内心で、まずいことになったと感じていたのだ。
ユリが”彼女“のことを知らないことは信じる。
でもユリは“彼女”を見たという。
この半年間、追手をうまくかわしていた彼女がとるような行動には思えない。
それにユリが今日出会った彼女が本当に翔が探している彼女であったなら、彼女は死んでいなかったことになる。
1ヶ月前に六本木で見つかった焼死体は彼女じゃなかったのだ。
怨念を抱き、成仏できなかった“彼女”の亡霊でもない限りは。
彼女がもし生きていれば、翔にとっては朗報である。
しかし、まずいのは一般人であるユリが彼女の生死に関わる情報を持ち、しかもあの店と接触してしまったことだ。
あの店の連中にバレれば、ユリはー
「ああ。ここが私のアパートなの。」
「…ああ、ここか。ボロいな。」
「うっさいわね。
仕方ないでしょ、私は普通の会社員なんだから。」
「ちゃんとした会社員ならもっといいとこ住めんだろ。ボロすぎるぞ。」
錆びて腐った階段を見ながら翔は呟いた。
「ここに来る駅前にあった小さなオフィスビルあったでしょ?あそこで働いてるのよ。」
「なるほど。潰れかけの会社で働いてるからこういうとこってわけね。」
「潰れかけなんかじゃ…」
「あれ?ユリ?」
上から降ってきた声に、ユリと翔は上を向いた。
「真樹!」
「帰り遅いから心配してたんだけど。まさか男連れとはね〜」
ニマニマする同僚に、思わずユリの顔が真っ赤になった。
「ち、違う!えっとこの人は…」
「おい」
翔がユリの首元を引っ張った。
「あの店とあの女のことは誰にも言うなよ。」
耳元で忠告されたユリは首を縦に振る。
「えー何よーラブラブ〜」
それを恋人同士のスキンシップと捉えた真樹はキャーキャーと一人で盛り上がる。
「じゃあ、ありがと」
これ以上、真樹が興奮しないようにユリはささっと翔を見送ることにした。
翔もさっさとこの場を離れたかったようだ。
すぐにユリに背を向けた。
「あ!ねえねえ!」
そこに真樹が翔に声を掛けた。
「この子、気難しいし気キツイけど、根はめちゃくちゃ優しい子だから、よろしくねー。」
無邪気に手を振る真樹に、翔の口角が少し上がったような気がした。
ペコリと会釈をして、翔は道の向こうに消えていった。
それを見送ったユリは階段を上り、二階にいる真樹の元へと向かった。
「どこで見つけてきたのよーあのイケメン」
「たまたま会ったの」
「ふうん?まあそれはこれからゆっくり聞くとして…お父さんに頼まれたもの買えたの?」
「ああ、うん。でもブランドものの時計なんてお父さんらしくないな…どうしたんだろ。」
「たしかにね。そんな服で平気で出かけられる神経の娘がそんな人から育つわけないもんね。」
「いいじゃない!楽なんだから!
…って、これからゆっくりって、明日は朝から仕上げなきゃいけない仕事あるんだから遅くまで飲めないよ?早く出社しなきゃなんないだから。」
「はいはい。とりあえず私の部屋に入ってから考えようよ。」
ぐいぐいと背中を押され、抵抗する術もなく、ユリは真樹の部屋へと入っていった。
次の日の朝、床の上で目覚めたユリは飛び起きた。
昨日の夜、真樹の部屋で酔い潰れて寝てしまったらしい。
時計の時刻を見て、絶望する。
遅刻はしないが、出社しようと思っていた時刻には間に合わない。
今日の朝に提出する予定だった書類の最後の仕上げをするつもりだったのに…。
焦る気持ちで飛び起きて、見えたのは真樹の書き置きだった。
『書類の仕上げと提出はやっておきます。』
真樹の書き置きに驚いて、携帯を見ると上司からのメールがあった。
真樹と進めていたプレゼンであったが、最後の提出は真樹に任せて、ユリはプレゼンの原稿を仕上げるようにとのことだった。
きっと真樹が気を利かせて上司に連絡したのだろう。
ユリの調子が悪いので、先方への提出は自分がすると申し出てくれたのだ。
ほっと安堵して、身支度へと取り掛かった。
玄関の戸を開き、今にも崩れそうな階段を下りながら、ふと視線に気づく。
目線を横に向けると、
なんとそこには翔がいた。
目を丸くさせて驚いていると、翔が突然ユリの手を引っ張った。
「おい、坂上ヨーコって知ってるか?」
唐突な質問に、
はぁあ?と声をあげたユリ。
「誰よ、ていうかなんで私が知ってると思うのよ。」
「昨日の青い目の女と一緒にこの女がいなかったか?」
写真を見せられて、渋々とその写真を手に取った。
写真には、茶髪で少々派手めなメイクをした女性が映っていた。
ユリや翔と年齢は違わないその女性をユリは知っていた。
「昨日、泣きながら店から出てきた子よ」
遠目だったけれど、よく覚えていた。
この写真でもつけている星形の髪飾りを前髪につけていた。
年齢のわりには子供っぽいアクセサリーだと思ったのが印象的だった。
「…そばにいたのか?」
「いいえ。でも、彼女が指差した方向にこの…ヨーコさん?がいたから…」
「おい、お前、今から山本のおっさんのところに行こう」
「はあ?私は今から会社だし、なんで私が…」
「お前は危険だ!」
叫ぶように翔は言った。
「お前は青い目の女も見てるし、ヨーコのことも見てる。消されるぞ。」
「青い眼の女の子とバーから泣きながら出てきた女の子を見たからってなんで…」
口の中がどんどん乾いていく。
「…それは後で説明してやるから」
テレビや小説の中でよく見るシーンだ。
不都合なものを見た証人が、警察や捜査関係者に事情を聞くうちにドツボにハマっていく。
視聴者をイライラさせる場面だ。
自分がその証人だと自覚すると、すぐさまその場から離れたい衝動に駆られた。
「…真樹には今日行けないって電話しなきゃ…」
「…いいよ、早くしろ」
鞄の中から電話の着信音が響いた。
身体をビクつかせ、おそるおそる携帯を手に取ると、上司からだった。
「上司だ」
ユリがそう言うと、翔の張り詰めていた顔が少し緩んだ。
「はい、藤崎です。え?どうしたんですか?すみません、よく聞こえなくて」
携帯の向こうからはサイレンの音や人のザワザワと騒ぐ声だった。
上司は何かを叫ぶように言っているが、音がうまく聞こえない。
なんだと目線を上にあげると、翔の肩越しに黒い煙が揺れているのが見えた。
ここから少し離れた場所だ。
ちょうど駅の方向だ。
持っていた携帯はようやく上司の声をユリに届けられた。
オフィスが燃えている
今どこにいる
相沢は近くにいるのか
相沢は真樹の苗字だ
『書類の仕上げと提出はやっておきます』
「いやあああああああっ」
ユリの叫び声がその場に響いた。
-続く-
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