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私は迷っていた。どこで道を間違えたんだろう。進んでも進んでも目的地にたどりつかない。せっかくのデートなのに。お気に入りの服だって着てきたのに。遅れるって連絡しなきゃ。でも、かばんの中をいくら探しても携帯電話は見つからない……。
いつもよりやかましい振動音が鳴り響いて、私はそっとまぶたを開いた。
どうも最近寝つきが悪い。昨日は羊の数を三百匹まで数えたが、余計に目が冴えた。目的地にたどりつかない夢を見たのはもう今月に入って三回目だ。
携帯電話は六時半を示している。私が仕掛けたアラームよりも一時間も早い。
「おはよう、今日も仕事がんばろう、またあとでね」
雅史から連絡が入っていた。
すぐに「おはよう、がんばろう。またあとでね」とほとんど変わらない文章を返して、もう一度寝ようとしたけれど、隣の部屋でばたばたと音がして眠れなかった。
私はのっそりと起きあがるとドアを開け、居間に入っていった。
父と母の姿はもうなかった。
食卓の皿にはいつもと同じ、目玉焼き、トマト、ほうれん草がのっかっている。
私はごはんとお味噌汁をよそってぼけっとした頭のままそれを口にする。
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