少年、少女と出逢う

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 うちのクラスの催し物がパンケーキなのはアオイのせいだ。  夏休みオレがパンケーキ屋でバイトしていたのをクラスで暴露され、そう決まってしまった。  その張本人(アオイ)は客寄せパンダになると本当にパンダの着ぐるみを着て途中まで頑張っていたのは知っている、ただし途中までだ。  浴衣姿の海音を見つけた瞬間他の客に渡すはずだったパンケーキの袋を引っ掴んで。  海音の手を引きどこかに消えて行った。  あの野郎、マジで許さねえ!!  鉄板をフライ返しでバァンと叩きつけたら教室にいた全員がオレを見て怖がり硬直していた。  交代の時間、一人になれる場所を探し見つけた体育館裏。  涼しんでいると何やら人の気配が近づいてきて、話し声が聞こえてきた。 「あの、オレとつ、」 「ごめんなさい」  相手に「つ、」までしか許さず、間髪入れずにごめんなさい、だと?  まあ気持ちはわかる、好きなヤツ以外からの気持ちはただ重いだけでしかなく。  だったら早く振ってやって他の人に行ってもらった方がいい。  にしても潔い女だな、と声がした方を覗いてみたら。  走り去る男、そして取り残された菜々(おんな)はオレの存在に気づき。 「盗み聞き? 感じ悪い」  不機嫌そうに睨んでいる。 「オレは最初からここにいたけどな? 後から来たのはそっちだろ?」 「来たくて来たわけじゃないわよ、連れて来られただけ」  ツンとすました顔。  嫌なヤツと会ってしまった、そんな気持ちが駄々洩れているようだけれど。  お互い様な? 「拓海は?」 「まだ交代の時間じゃないから。アオイは?」  ふとさっきのパンダ逃避行が頭に浮かんで。 「知らねえ、どっか行った」  交代の時間でもないくせに、腹が立つ。  そういえば、この間は悪かった……、なんて言い出す雰囲気でもなくこの微妙な空気に耐え切れなくなったオレは。  まだ食べずに取っておいたパンケーキを手に。 「コレ、やるわ。余ったやつ」  差し出すと心なしか菜々の表情が緩んだ気がした。 「じゃあ、ちょっと溶けたけどあげる、交換。こっちも余ったやつ」  オレの手からパンケーキの袋を受け取って代わりに乗せられたのはかき氷。 「じゃあね」  今日は一つに纏めたポニーテールが何だか跳ねているような浴衣の後ろ姿に。  もう聞こえないだろうけれど、サンキュと口の中で呟いた。  初めてアイツとケンカ口調以外で話した気がする。
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