少年、少女と出逢う

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 学祭ライブ。  海音から円陣を組もう、と言ってきたのは初めてだった。 「円陣、組みたいな、TAM’sで」  何となく不思議な気分だ、いつもはカチカチに緊張しているはずの海音に誘われてオレたちは円陣を組んだ。 「今日も思い切りやるぞ、やりきるぞ、行くぞー!」  拓海の言葉に、「おーーー!!」と気合を入れる。  海音のセッティングを待って、いつも通り皆目を合わせてお互いを励まし合って。  もう何度目だろう、始まる前のこの瞬間が大好きだ。  緊張するのに目の前にオレらの演奏を待ってる人がいるから。  1曲目はオレたちがリスペクトしているシガレットのコピー曲。  ノリノリの曲にジャンプしている姿が見えた。  そして2曲目は「Na na na」  何故かコンテストの時の動画がネット上で流れてたし何度か聞いた人もいたようだ。  バラードなのに身体を揺らしながら楽しそうに皆が聞いてくれているのを見て安心した。  曲の途中で海音を見た、どんな気持ちでこれを演奏してるんだろうか、と。  拓海が他の菜々(おんな)のために創った曲を。  だけどラストの曲「smile」は。  拓海が海音のために創ったのだって、オレもアオイも多分気付いてた。  曲が始まる前に皆を見回した拓海が笑顔で『ス・マ・イ・ル』なんて言うからオレらも笑顔になった。  拓海はずっとこの曲の二番の歌詞を歌わなかった、ずっと練習中はハミング。  まだ出来てないのかと思ったけれど、そうじゃなくて。   smile 君のそれを   smile ずっとそばで   smile 見つめていること   smile 許されない      君へエール 優しい人が   笑ってられるように 幸せを祈るよ、ずっと  海音へのサヨナラを込めた歌だったからだ。  その日、そのすぐ後で。  海音がバンドを抜ける、と言い出した。 「誘ってくれてありがとう、私TAM’sに入れて良かった、本当に良かったよ」  拓海が付けたバンド名、Tは拓海、Aはアオイ、Mは海音、Sが周、オレ。  泣きながら最後に笑って「ありがとう」なんて言われたら、誰一人止めることはできなかったんだ。
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