少年、少女と出逢う

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 海音のいなくなった練習場は何だか広く感じる。  コンテストも終わったし、練習も週に2回とか。  実はTAM’sにクリスマスライブの誘いが来た。  地元のライブハウスのオーナーさんから、コンテストでいい成績を収めたバンドに声をかけてくれたのだ。  コンテストではオレの名前がリーダーとして登録されていたので連絡がきたのだけれど、その場で断った。  だからそのことは、アオイも拓海も知らない。  だってTAM’sには今、海音(ドラム)がいないから。  寒くなってきてかじかんだ指先を温めながら。  オレの誕生日の日に海音がくれたピック入れになっているペンダント。  ギターを弾くために、それから一枚取り出していると。 「え?! 何それ、いいじゃん!!」  アオイが目ざとく、指摘してきた。   「周、それどこで買ったの?」 「海音から貰った、誕生日に」  しつこそうだから正直に伝えたら、思った通りアオイは『聞かなきゃ良かった』というように。  悲しそうな顔をして。  拓海も何だか不満げな顔でこっちを見ているけれど。  海音にとっては多分8月8日、海音の誕生日に皆が祝ったそのお返しだと思う。 『見つからないでね、先生に。没収されたら悲しい』  あれからずっとシャツの中に隠すようにして付けていた。  アオイはともかく、拓海にそんな顔されたくはねえな。  今日も当たり前のようにそこにいる菜々がオマエにはいるだろ。 「かっこいいね、それ」 「あ?」 「センスいいね、海音ちゃん」  近づいてきた菜々がオレのペンダントをマジマジと見てそう言うから面食らう。 「似合うよ、周に」  そうして笑った、初めて、オレに向かって。  猫被って微笑む姿を見かけたことはあったけれど。  本当の笑顔は、目を細めて口を横に目いっぱい開いて笑う、らしい。  一瞬その普段の猫かぶりとはかけ離れた姿に驚いて。 「、センスはいいよな、うん」  またサンキュは言いそびれた。
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