少女、少年に興味を抱く

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 しつこさに根負けして一曲だけ歌うことにした。  シガレットのバラード曲。  片想いの子に想いを告げられないまま失恋したって内容の曲。  ……オレみてえだな、なんて思いながら聞いてた曲だ。  なるべく菜々から顔を背けて歌う。  めっちゃこっち見てるんだよ、何で見てる?!  歌い終えるとパチパチパチパチという拍手と鼻をすする音。  は?! 「良かった、いい曲だ、これ。周、全然音痴じゃないじゃん」  と笑いながら泣いている、何でだ?! 「ホラ」    まだ封を開けてなかったオシボリを渡すと、ゴシゴシとそれで顔を拭いて。 「片想いの曲だよね、切ない! 周みたいだね!!」  思わずそれに目を見開くと。 「違った? ホラ、周はみ、」 「違う!!」 「え? だって絶対、み」 「違うって言ってんだろ!!」 「私まだ何も言ってないじゃん、み」 「止めろって」 「海音ちゃんのこと好きなんでしょ? 周」  ……、終わった。  何コイツ勝手に口に出してんの?  ずっと誰にも何も言って来なかったソレを。  まるでティッシュ箱からスッとティッシュ引き出したくらい軽く……。  その、あまりのショックに。 「帰る」  フラッと立ち上がったオレの腕をグッと引かれて無理やりもう一度ソファーに座らせられて。 「辛かったね、周」  なんで人の頭勝手に撫でてんだよ!! 「……言うなよ、海音には。言ったらぶっ殺す」  動揺しすぎだ、何で女に殺すとか物騒な言葉使ってんだよ、アホか、オレ!! 「言わないよ、だって片想いは切ないし。私もしてるもん、片想い」  はあ、って長いため息ついた菜々が。 「だから私、周と話してみたかった。を好きな周と。を好きな私。似てるのかな? って」  待てよ、片想い?  菜々の片想いの相手が拓海?  てっきり拓海ともう付き合ってると思っていたけれど?  それから菜々が話してくれたものは、何となくオレと通じるものがあって。  この日を境に自由気ままでワガママ放題なんじゃないかって思ってた菜々への見方がオレの中で少しずつ変わっていった。
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