プロローグ

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 パアンッ!!  乾いた音が響き渡る。  生まれて初めて、女に叩かれた。  ぶたれた左頬が熱くなってジンジンと痛みだす。 「あんたなんか、大嫌い」  オレを睨み上げて、それから鼻柱に猫が威嚇(いかく)するような(しわ)を寄せて。  中指を突き立てた涙目の女。  何か言い返さなきゃと思った瞬間、今度は。 「Go to hell!(地獄に落ちろ)Don't mess with me!(二度と私に関わるな)」  流暢すぎる英語をかろうじて聞き取り意味を思い出している内に。  トドメに手加減無しの鮮やかな下段蹴りもお見舞いされて。  不覚にもグラついたオレ。  ざまあみろとばかりにベエッと舌を出して去っていく。  だけど。  長い髪をなびかせて背中を向ける、その一瞬。  見えたのは、頬を伝う無色透明な雫。  ……オレの、せいだよな。  ほんの少しだけ胸が痛む。  でも今は。  蹴られた太腿の方が痛すぎて、うずくまるより他はなかった。 【周と菜々のお話】
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