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翌日の放課後までに海音を見かけたのは一度だけ。
アイツはオレに気付いてなかったけれど、昼休みすれ違った。
俯いて早歩きで、まだ弁当食ってる時間だろうに。
声をかけようとして、できなかった。
海音の表情に。
……今、泣いてなかったか?
振り向いた時にはもう階段へと曲がってしまったようで。
あの時追いかけて話を聞いてやれば良かった。
いや、前日から何だか元気なかたのは察してたのに。
と、後悔したのは放課後になってからだった。
「アオイ、ごめん。菜々連れて先に行ってて」
いつものように放課後はアオイの家でのバンド練習。
オレとアオイ、そしてクラスの違う海音と拓海はバス停前か昇降口あたりで会って一緒に向かっていたのに。
今日に限って見たことのない色白の髪の長い女を連れた拓海が、うちのクラスの前でオレら、いやアオイを待っていたのだ。
この女、転校生か? 拓海とも知り合いだったんだ。
で、海音はどうした? いつもなら拓海の隣にいるはずの姿が無い。
海音がいた場所に、見知らぬ女がいる状態。
「海音ちゃんは?」
オレと同じ疑問を口にしたアオイに。
「昼休みから体調崩してるみたいで、保健室。様子見てダメそうなら送ってくし、良さげなら一緒に練習行くから」
どうも歯切れが悪い拓海の様子が気になる、けれど。
その女がチラリとオレを見上げた。
目が合った瞬間に反らすくせに、またこちらの様子を伺っているような視線を感じる。
まるでオレの外見ではなく性格を探るような嫌な視線だ。
「拓海、誰この女?」
不躾なそれに我慢できなくてムスッとしたままで女を見下ろした。
「河本 菜々、オレと拓海の幼馴染なんだ」
アオイが拓海に変わって答えた瞬間。
オレの視線を怖がるように拓海の背中に隠れた。
……さっきまでの、あの不躾で挑戦的な視線は何だった?!
直感が告げている、この女は何だか危険だと。
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