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「大学こっち受けるなら最初からそう言えよ」
食べ終わりあちこちの雑貨屋を覗き見る菜々に呆れたように声をかけた。
最初から1年だけの約束だったらしい、日本にいられるのは。
夏休みが終わり9月のオレらのコンテストまではいるとのこと。
大学生になったら戻ってくるはずだったけれど、どうしても、と親に頼み込んで一年だけ日本に戻って来たと。
拓海に、会うために。
「紛らわしいんだよ、二度と日本には戻ってこないみたいな言い方しやがって」
「ん? 言わなかったっけ?」
「聞いてねえし!!」
あの時お前は、
『……後、1ヶ月しかいられないんだ、日本には』
それと、何か変なこと。
え、っと。
『好きになっても離ればなれになるってわかっていたら、周ならその人のこと好きになるの止める?』
!!、あれって?!
「周、これ見て、可愛い!!」
そうオレを振り返った菜々に、どんな顔をしていいのかわからなくなった。
「顔赤い、ここそんな暑くないよ?」
とオレの頬に手を伸ばし温度を確かめるように触れた菜々の手がひんやりとしていて。
「っ、別に。熱くなんかねえし」
と一歩引き、その気持ちのいい温度から逃げた。
もう片方の手には黒猫のブローチ。
オレがそれに気づいたのをわかったのか。
「見て~!! めっちゃ可愛いでしょ!! ちょっと待ってて、買ってくる!」
「待て、」
はしゃぎレジに向かう菜々の手を引き留めた。
「何?」
「……バイトとか世話になったし、餞別っちゅうか」
「せんべつ?!」
帰国子女よ、本当にオマエそんなんでこっちの大学受かるのか?
思わず苦笑しながら。
「礼……だ」
「gift?」
「それ、だ!!」
恥ずかしさの余りぶっきらぼうに菜々の手からその黒猫ブローチを奪い去って、プレゼント用に包んで貰うこともせずに小さな紙袋のまま菜々に手渡した。
「ありがと」
受け取った菜々は嬉しそうに黒いブラウスにブローチを付けた。
どっちも黒いから金色の目玉だけがギョロリとくっついているみたいで。
暗闇が好きな家のクロみたいでついオレの頬も緩むと。
伸びて来たあの心地いい温度の手がオレの首に絡まり不意打ちを食らって前かがみになった。
一瞬、ほんの一瞬、唇に触れた柔らかな何か。
瞬きの間の出来事を確認する前にオレに背を向けた菜々。
……、なんだ、った?!
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