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最近、海音の様子がおかしいのに気付いたのは二学期が始まった頃。
おかしいのはオレに対してだ。
まるで怒ってでもいるかのように時々遠目からじっとオレを睨んでいる、ような?
目が合えば慌てて目を背けるけれど、それは菜々がまた夏の思い出と称して海音の家に泊まりに行ったあたりからだ。
女同士どうらやよからぬ話でもしやがったな? と思ったのは海音が大会の日に言った言葉。
9月の初めの県大会、昨年のリベンジ。
そういや、去年はまだ菜々の存在をオレも海音も知らなかったんだよな。
今はこうして仲間みたいに普通にいるってのに。
明後日にはイギリスに行くんだとよ。
菜々と弓弦に見送られて会場入りする時、何となく視線を感じて振り返れば。
祈るような顔をしている菜々と目が合って。
心配すんな、と笑っておいた。
「周、」
「ん?」
「菜々ちゃんへの餞にしたいね」
ああ、コイツ絶対菜々から聞いてんな、って思ったけれど。
まあな、と頷いた。
海音を振り返る拓海。
頷く海音にオレもアオイも笑っていた。
拓海のハジマリのピースサイン。
あんなに広い会場の中で不思議なことに演奏しながらずっと菜々が目に入っていた。
いつもなら眩しいスポットライトから目を反らして会場を見ることもしなかったのに。
笑顔まで見えたから、オレも多分笑ってたと思う。
今までのどの会場よりも楽しめてた気がするのは多分全員、だから自信はあった。
「県大会代表はTAM’s !!」
大歓声に包まれたオレたちを菜々は目を細めて自分のことのように喜んでいた。
「良かったね、良かった」
そう、泣き笑いした菜々の涙を拭おうかどうか迷った挙句。
何も勇気を出せないオレはただ拳を握ってるだけだった。
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