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「え? ああ、うん、わかった」
誰からかかかってきた電話に出たアオイが、オレとあの女をチラチラ見ながら対応している。
そして。
「あのさ、周。今から1時間以内に宅配が来る予定なんだって。家に誰もいないから居て欲しい、って母さんから」
確かにアオイの家の離れであるこの建物は防音だし誰かが訪ねて来てもきっと気付けないと思う。
「海音ちゃんと拓海が来てもここに誰もいないと困るだろうし……。菜々はどうする? 一緒に来る?」
「拓海はこっちに来るんでしょ? だったら待ってる」
……つまりはアオイが戻ってくるまで? もしくは拓海と海音が来るまで?
オレとこの女の二人きり?! 行けよ、アオイと行けよ、それか帰れ!!
そんなオレの願いも虚しく二人きりになるとか、嫌で仕方ない。
女の大半は嫌いだ、卑怯だし一人じゃ何もできないくせに集まったらうるさい。
うるさいだけじゃなくて、汚い。
全部が全部じゃねえだろうけれど。
中学生の時、海音をイジメる女の集団の真っ黒いイメージは未だに払拭できない。
この女だって今は大人しいけれど、その内友達ができて周りとつるむようになったら。
向こう側の人間に転がるのかもしんねえし。
はあっとついたため息が誰かがついたソレと被った。
……一人しかいない。
思わず女の方をチラリと見たら、目があった。
「ねえ、先帰れば? 私が待ってるから。拓海と、……海音ちゃん、だっけ?」
「いや、オレは練習あるし。そっちこそ見てるだけなんだから帰れば? それともバンド加入希望? お断りだけど。見学とかも今後は遠慮して、気が散る」
無表情だ、多分、オレもあの女も。
だけど何だか腹が立ってんのは互いに伝わる。
だって互いに棘があるのを自覚してるから。
「私は昔からアオイの家に遊びに来てた、普通に! 何で遠慮しないといけないわけ?」
「ここはもうずっとオレらの練習場所なんだわ、幼馴染とか知らねえけど普通に邪魔、練習場所ではアンタは部外者!」
さっき、この女が海音の名前を口にした時に嫌な感じがした。
嫌っている、とか、そういう女の嫌なやつ。
だから邪魔、多分コイツは海音の敵だ。
例えアオイや拓海の幼馴染であっても、オレらが大事にしてきたこの場所にそうそう簡単に踏み入れさせられない。
帰れと睨んだオレに向けてくる視線は真っすぐで。
そして怒りしか含んでなかった。
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