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睨み合う沈黙を破ったのは電話の音。
拓海から、オレへの電話だった。
『周、ごめん。今日、海音もオレもちょっと行けそうにない』
電話の向こうの拓海の声がいつもと違う。
泣いてんのか?!
「拓海、今どこにいる? 海音は?」
『オレはまだ学校の近く、……海音は、わかんない』
「わかんない、って何?」
だってさっき拓海は、『様子見てダメそうなら送ってくし、良さげなら一緒に練習行くから』そう言ってたよな?
どういうことだよ。
「拓海!! オマエ、海音と一緒に、って」
鼻をすする声だけしか聞こえなくて苛立ち声を荒げたオレから。
「拓海? 今どこ? 迎えに行くからそこにいて」
突然、電話を奪う女に驚いた。
「ちょ、オレまだ拓海と」
「うるさい、喋らないで!! 拓海の声が聞こえなくなる」
顔をしかめてるけれどオレよりもお前の方が声がデカイじゃねえか。
「拓海……? うん、ん……、わかった。大丈夫?」
電話口で頷きながら拓海としばらく話した後で、ハイと電話を返された。
「もしもし、拓海? そんで海音は」
言いながらも違和感。
通話口の向こうは静まり返っていて。
表示を見たら通話状態ではなくなっている。
……、この女勝手に切りやがった。
「何、勝手に切ってんだよ!」
「用事は済んだの、拓海はこのまま家に帰るって。アオイとアンタにそれを伝えて欲しいって」
ッチ、そっちじゃねえんだって、オレが聞きたいのは。
拓海に掛けようとスマホをいじった瞬間に。
「止めてよ、そっとしといてくれないかな? 何で拓海のことあんな風に責めるの?」
「別に責めてなんかねえだろ」
「責めてた!! 海音ちゃんなら一人で帰ったみたいよ、それでしょ、アンタが聞きたかったこと!」
女の言葉にさっさとギターを片付けて帰り支度を始める。
「アオイに伝えて、用事ができたから今日は帰るって」
「待って」
靴を履き出したオレに詰め寄って来て。
「二度とさっきみたいに拓海に乱暴な口利かないで! あんな言い方したら私が許さないから!」
オレに向ける憎しみすら入ったようなその目でわかった。
この女は拓海のことが好きなのだと。
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