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――好きな人がいる。
「はよ」
「はよー。なにそれ寝ぐせ?」
通っている高校の最寄り駅。
改札を出た先で、遠野と桜田が待っていた。
「ばっか、おしゃれだよおしゃれ」
桜田の軽口に笑って答える。
朝、姉貴と洗面所を取り合いながら苦労してセットしたのだ。
けして寝ぐせではない。
「無駄な努力を……」
「無駄って……」
「吉原ってもともとくせ毛だから、どこがどう変わったかわかんねーよ」
桜田はそう言いながら、空気を含ませるようにセットした頭頂部をつぶしてくる。
「やめろ!崩れる!」
「だからわかんねーって」
「ひでぇ」
辛辣なことをポンポンと投げてくる桜田は、サラサラストレートだ。
女子かよ。
実際女子が「どんなお手入れしてるんだろう」とか言ってたな。
女子もうらやむ黒髪サラサラストレート。
顔は優男風で、線も細い。
が、背は俺より5センチくらい高いんだよな。
ずるい。
「遠野ぉ、桜田がひでーよぉ」
泣きまねをしながら桜田の隣の遠野を見る。
表情筋の動かない顔で、遠野は俺と桜田を眺めていた。
反応は、ない。
「……桜田ぁ、遠野もひでぇ」
「ぼんやりしてんなぁ」
思わず桜田の肩を抱く。……と、いうより縋り付く。
桜田は俺を引きずったまま、遠野を小突く。
「あ、あぁ。すまない。考え事をしてた」
「ふーん?そういやお前らのクラスも体育あるよな」
「三限目」
「俺ジャージ忘れたっぽいから貸してくれん?一限なんだけど」
「汗臭くなるからいやだ」
「制汗スプレーふるから」
少し前を歩く遠野と桜田の会話を聞きながら、黙々と足を進める。
ふざけて縋り付いた腕は何の反応も得られず、今はリュックの肩紐を握っている。
目線を落とせば、力を入れすぎて指先が白くなっていた。
高校までは少し歩く。
延々と坂が続くので、登校は少々億劫だ。
帰りは楽だが。
回れ右をして坂を駆け下りたい衝動を抑えて、重い一歩を延々と繰り返す。
遠野と桜田とは、高校一年で同じクラスになった。
二人はもともと同じ中学だったらしく仲がいい。
俺が知り合いが誰一人おらず戸惑っていたところ、二人が声をかけてくれて話すようになった。
学年が二年に上がって、遠野と俺が同じクラスに。桜田が別のクラスになった。
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