17人が本棚に入れています
本棚に追加
ずっと、想いは秘めたまま。
「吉原ー!」
校門をくぐる手前で声をかけられた。
三人とも足を止める。
「林、おはよう」
同じクラスの林だ。
俺の名前を呼びながら駆け寄ってくる。
「助けてくれぇ!」
飛びつかんばかりの勢いに押されて一歩後ずさる。
「……今度は何の課題だ?」
「話が早い。英語のリーディング」
こいつは宿題の類をやってこない。
そして困るたびに俺に声をかけてくるのだ。
二年で同じクラスになって、一度課題を見せたらこのありさまだ。
仲はいい、と思う。
気軽に声をかけてくれる、クラスのムードメーカーだし。
「いやだ」
「ジュース奢る!イチゴオレ!」
「……ミックスオレも」
紙パックのイチゴオレは、好物だ。
けれどミックスオレもたまに飲みたくなる。
この際だから、と口に出してみれば、
「イチゴオレとミックスオレな!」
すぐに返事が来る。
交渉成立!と林が俺の手を取ろうとすると、後ろから声がかかる。
「おい」
「糖尿まっしぐらだよ、それ」
少し不機嫌な響きの遠野の声と、呆れたような桜田の声。
「林は毎回吉原に頼むな。吉原、さすがにそのラインナップは体に悪い。一日どちらか一本にしとけ」
「けち臭いこと言うなよ。吉原のかーちゃんかよ、遠野」
林が文句を言う。
「今回は契約成立したから!移す時間なくなる!吉原、行こう!」
「えっ」
「あ、ちょ……」
林に引きずられるようにして校舎へ走る。
ちら、と見た遠野と桜田は、二人で何やら話しているようだった。
遠野の耳に顔を寄せた桜田が、少し笑ったように見えた。
遠野も、それを自然と受け入れている。
卑屈だろうか。
その光景を、お似合いだと思ってしまった。
――好きな人がいる。
――彼には、好きな人がいる。
最初のコメントを投稿しよう!