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藤川が市立病院の循環器内科を訪れたのは金曜日のことだった。
五十歳を越えれば、誰しもが身体に多少のガタは来るものである。
藤川自身も大病らしい病気を患ったことのない男だったが、三週間程前から胸の痛みを感じており、それ故の来院だった。
狭心症、発作が起きてしまえば心筋梗塞。これが藤川本人の見立てだが、どちらも動脈硬化によって引き起こされる病気である。
火曜日のことだった。
藤川は仕事中に目眩と息苦しさで立っていられなくなり、それを機に心筋梗塞になるまで、それ程の猶予が無いであろうことを予感していた。
藤川が市立病院を訪れたのは金曜日のことなので、二日間の空白がある。心筋梗塞を意識しながら、随分と悠長な男だと言う見方もあるが、藤川なりには最善を尽くした上での二日間だった。
近頃、大きな病院を訪れるには、紹介状が必要とされる。
勿論、本来は余計に金を払えば紹介状がなくとも済むことであるが、コロナ下の現状では拒否されることもあり、藤川はそれを選択しなかった。
翌日の水曜日が、近所の内科医の休診日だった為に、木曜日にその内科医を訪れて、紹介状を書いて貰った次第である。
市立病院は十六年前に藤川の妻が他界した病院だった。
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