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癒し処と書いてあるからマッサージ店かもしれない。マッサージなら30分3000円は妥当だろう。しかし「銀櫂亭」という名前はまるで料亭だ。
ここが何なのかわからない。わからないが、気になる。もしかするとぼったくられるかもしれないが、その時はその時だ。俺はガラスの扉を押し開けて、中へ入った。
中は病院の待合室のようだった。一人がけのソファーが、少しずつ距離をおいて並んでいる。俺が中に入るのと同時に、受付カウンターに一人の女性がやってきた。スタンドカラーの白いシャツ。170センチくらいありそうな長身でモデルのように手足が長いのに、洒落っ気のない太いフレームの眼鏡をかけて、長い髪を一つにまとめている。「こんばんは」でも「いらっしゃいませ」でもなく、カウンターの中で黙っている。仕方なく俺から話しかけた。
「あの、ここは病院ですか?」
俺が話しかけると、女性から見下ろされた。仕方ない。俺は身長162センチしかないのだから。
「いえ、違います。よろず音楽癒し処です」
答えになっていないが、病院でないなら保険証は必要なさそうだ。
「ええと、ここでは何をすればいいんですか?」
「では、カウンセリングシートをご記入ください」
受付の女性が紙を挟んだバインダーとボールペンを渡してきた。俺はソファーに座った。
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