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 氏名、生年月日、住所のほかに「今日はどうされましたか?」と書いてあるのでやはり病院のようだ。しかし病院の問診票と違うのは、その下に「好きな音楽のジャンルは?」「楽器の演奏経験はありますか?」など、およそ病院では聞かれそうにない質問が並んでいる。  俺は「今日はどうされましたか?」の問いには「胃痛」と答え、好きな音楽のジャンルは空欄、楽器経験は「無し」に丸をつけた。  バインダーを女性に返すと、「それではそちらのカウンセリングルームにお入りください」と言う。病院の問診票のように先に医者に渡さないのだろうかと女性の手元のバインダーを見ていたら、「そちらの水色のドアです。どうぞ」と念を押されてしまった。    淡い水色の引き戸を開けると、そこも診察室にしか思えなかった。待合室と同じ一人がけのソファーの向こうに机があり、先ほどの受付の女性と同じようにスタンドカラーの白いシャツを着た人が座っている。  ぱっと見て、その人が男性か女性か、年齢は何歳なのかまったく見当もつかなかった。ショートカットの髪は黒々として、肌は湯上りのようにつるりとしているのに、なぜか若さは感じられない。長い時間生きている雰囲気が漂っている。
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