小太鼓のリズム

１

　一か月前、株式会社イノベーテックは東証マザーズから東証二部に上場した。
　上場の話が出たころ、よその会社から経理をヘッドハンティングした。俺より年下の女性だったが、目を瞠(みは)るほど優秀だった。

　上場を機に、経理部門は管理部経理課から経理部へと独立することになった。創業当時から経理を務めていた俺が当然部長になると思っていたのに、部長になったのは中途入社の彼女だった。
　胃が痛くなるようになったのはそれからだ。

　何度も言葉に詰まりながら経緯を説明し終わると、性別不明の人物は顎をさすりながら言った。

「……ふーむ、わかりました。では、一曲処方しましょう」

　一曲処方？　曲を処方するって何だ？　俺が呆然としていると、紙に何かさらさらと書きつけている。

「西谷(にしたに)さん」
　性別不明の人物が部屋の奥に声をかけると、坊主頭の男性が出てきた。白いスタンドカラーシャツはここのユニフォームなのだろうか。