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この夜を抜けたら
親友の優里が死んだ。
色とりどりの花が飾られた祭壇の真ん中で、遺影の優里は笑っている。一週間前、学校帰りのマクドナルドで見たのと同じ笑顔だ。
参列した人々は若すぎる死に涙を流し、空気が重く湿っている。遺族席にいる優里のお母さんなんて泣きすぎてもう立っていられない。
私の頬も涙で濡れているが、私の頭の中は悲しみより疑問でいっぱいだった。
どうして死んじゃったの? それはニュースが教えてくれた。いじめを苦にした自殺だという。
優里とは小学生のころからの付き合いで、高校は違うけど時折放課後や休日に会ってはくだらない話をして笑い合っていた。駅前のマックで、発売されたばかりの漫画の最新刊についてしゃべっていたのはほんの一週間前のことだ。
優里が亡くなったのは、その日の夜だという。
新刊が発売されたばかりなのに、早く続きが読みたいって言っていたじゃない。いつも通り笑っていて、いじめられてるなんて一言も言わなかったじゃない。どうして死んじゃったの?
私の頭の中は疑問でいっぱいで、体の内側からは悲しみが溢れて崩れそうだった。
お焼香の順番が回ってきた。優里の笑顔と正面から向き合うと、涙が再び頬を伝う。ずっと泣いているから瞼が痛い。独特の香りがする小さな木の屑のようなものをつまみ上げたとき、不思議な感覚に陥った。
このお焼香、何だか変な匂いがする。今まで嗅いだことのあるお焼香の匂いじゃない。何かに似ている。これは何だろう。これは、これは――。
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