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「ポテトのMと、シェイクのチョコレートお願いします。藍は?」
目の前に優里がいる。遺影じゃない。生身の優里と一緒にマクドナルドにいる。優里は県内トップクラスの進学校の制服をきっちりと着て、教科書や参考書がたくさん入って重そうなリュックを背負っている。かけてる眼鏡がずり落ちそうになっているところまで、いつもの優里だ。
「藍、どうしたの?」
いつまでも注文しない私を怪訝な顔で見ている。不審に思われないように慌てて「あ、ポテトのMと、ストロベリーシェイクで」といつも通りの注文をする。温かいポテトと冷たいシェイクを載せたトレイを持って、運良く空いていた窓際の席に座る。
「いやー、私、最終ページ読み終わったとき叫んじゃったよ。『え、ここで終わるの?』って」
優里が発売されたばかりの漫画の最新刊の話を始める。自分の推しキャラがどれほど素晴らしい活躍をしたか事細かに説明する。
何だこれは。一体何なんだ。
私は優里のお葬式にいたはずだ。それなのに今、優里は目の前でしゃべっている。混乱した頭のままポテトをつまみ、シェイクをすする。ポテトの塩加減もシェイクの甘みもいつも通り感じている。夢の中ではなさそうだ。
それなら、優里のお葬式のほうが夢だったんだ。それならいい。きっと悪い夢だったんだ。
優里が次に何を話すか、すべての内容を知っている。後ろの男子高校生グループが突然馬鹿笑いをして耳が痛くなるのも知っている。ソフトツイストを持った小さな子どもが転んでソフトクリームまみれになって泣いてしまうのも覚えている。
何だこれは。デジャヴュなのか。
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