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序章 天使様
――新たな年度が始まり、慣れてきた四月の終わり。
夕焼けに染まる校舎から、人目を避けるようにそっと抜け出す人影があった。
セーラー服にローファー姿の少女は、辺りを警戒しながら校舎裏へと急ぐ。
鬱蒼とした木々の間を通り、彼女は裏門から学校を出た。
誰もいないことを確認しながら、夕闇の中に佇む電話ボックスへと向かう。
ほんのりとした明かりが寂れた公衆電話を照らしていた。
ギィ……――軋むような音を立て、電話ボックスのドアが開かれる。
少女が電話ボックスへ入ると、公衆電話が鳴り出した。
躊躇いがちに手を伸ばし、受話器を取り耳に当てる。
「もしもし?」
電話の向こうにいるのが待っていた相手なのかわからないので、名乗ることはしなかった。
『レナさん、ですね』
相手は少女の名前を呼ぶ。
男性とも女性とも取れない、曇った声。
ボイスチェンジャーを使っているのだろうか。
「天使様……」
『ええ、ご相談いただいた者です』
レナと呼ばれた少女は、電話に出た相手を“天使様”と呼んだ。
「噂は本当だったのね……」
学校で広がっている噂の一つ、天使様。
ある掲示板サイトからコンタクトを取ることができ、校舎裏の公衆電話で直接やり取りをすることができれば、願いを叶えてもらえるという噂だ。
そんな不確かな噂に縋らなくてはないくらい、レナは追い詰められていた。
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