第一章 七不思議のうわさ

4/12

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
 夏世は慌てた様子でバタバタとダイニングを出ていく。  残された二人は顔を見合わせ、ため息を吐いた。 「あ、夏世ねえ、お弁当忘れてる」 「教室で渡すよ」  夜深に答えながら、ソラが席を立つ。  トレーに食器を重ねてシンクまで運び、洗い始めると夜深から声が掛かる。 「桜高の七不思議、去年は流行らなかったの?」  気になっていた話に戻り、ソラは手を止めた。 「七不思議どころか、怪談すら聞いたことないよ。噂といえば、生徒会長が二重人格なんじゃないかって言われてるけど」  ソラと夏世が一年生の時、現在の生徒会長である並木(なみき)明香(さやか)についての噂を聞いたことがある。  当時、二年生で生徒会の副会長を務めていた明香は、成績優秀で品行方正かつ謙虚な美少女と有名だった。  一方で、彼女がとても冷たく見えたり、取り巻きから離れて一人で過ごしていることがある。  そのせいか『並木明香は二重人格なのではないか?』と噂されていた。 「生徒会長――並木先輩だったよね。うーん、そんな風には見えなかったけどなあ」  入学式で挨拶をしていた明香を思い出し、夜深は首を傾げる。 「だから、ただの噂だって」 「うん、私もそう思う」  ソラに夜深が同意した。 「もし、生徒会長さんが二重人格だったとしても、その表現は正しくないよ」 「ああ、多重人格って言うんだっけ」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加