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恵一が、恭子のネックレスをショーウィンドウに並べる。
赤紫色だった石が、緑色に変わる。
「恭子さん、こちらへ。もうすぐ、日が落ちます」
恵一に促され、恭子もまたショーウィンドウに近付いた。
徐々に暮れる夕日に、二つの石の色が変化する。
「綺麗……」
その変化に、恭子は思わず呟いた。
「例え、人工石でもイミテーションでも、綺麗なものは綺麗、そう思いませんか」
恵一の言葉に、恭子は驚くほど気持ちが落ち着くのを感じた。
「ええ、そうですね。って、人工石、ですか」
「はい。この万年筆の石は、人工石です。さすがにアレキサンドライトの天然石は希少過ぎて、なかなかお目にかかれないんですよ」
「恵一さんが、大切そうに扱っていらっしゃったから、天然石なのかと……」
恭子がそう言うと、恵一は苦笑した。
「これは、祖母の、いえ曽祖父の形見なんです」
小学校の教師であった恵一の曽祖母は、ロシア人との混血で軍人であった曽祖父と恋に落ちた。二人は結婚して曽祖母は身籠もったが、まもなく戦争が二人を引き離した。
曽祖父の戦死の報が届き、幼子を抱えた曽祖母は、周囲の勧めで別の男性と再婚した。それが栗田という骨董商で、この店の四代前の店主であり、恵一には義理の曽祖父になる。二人の間に子はなく、曽祖母の連れ子が奉公人であった男性と結婚して店を継いだ。それが、恵一の父方の祖父母だ。祖母は、実の曽祖母から実の父の形見だと万年筆を譲られ、祖母から父へ、父から恵一へと受け継がれたものだという。
「ひいお祖母様は、ずっとこの万年筆を持っていらっしゃんですね」
「いえ、そういうわけでは……実の曽祖父の戦死は、誤報だったのです」
そう言って恵一は、懐から一枚の古い写真を取り出した。
そこには、背が高く彫りの深い顔立ちの洋装姿の男性と、幼い女の子を抱いた小柄な和装の女性、そして女性よりは背が高く、洋装の男性よりは背の低い和装の男性が写っている。
洋装姿の男性は、恵一によく似ている。
「こちらが、実のひいお祖父様ですね。よく似ています、恵一さんに」
穏やかに微笑む三人の表情に、恭子は胸が締め付けられる様な切なさを覚える。
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