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参 大死一番
参. 『大死一番』
海時
真っ暗な空間。光も音も空気すらもない。のっそりと全身を撫でるような感触だけを覚える。不思議な感覚だった。周りはまるで水の中にいるようで泡がブクブクしている。
——ここって水の中?
今になって息ができなかったことに気づいた俺は水中でもがき苦しむ。徐々に意識が遠のいていく俺は重いまぶたを閉じた。これが死ぬという感覚なんだろうか。その瞬間、大城戸のおっさんとの話を思い出す。
そうだった。俺はこれから強くなって外界の旅に出るんだった。ここで死ぬわけにはいかない。なんとかしなければ、と必死で手足を動かして上へ進んでみる。するとだんだん周辺が明るくなって眩しい光が目を刺激した。俺は光を直接見ないよう片腕で目を隠しながら上へ進んだ。
あともうちょっとでここから出られる、と気が逸ってもっと速く泳ごうとした俺は肝心なところで足がつってしまった。均衡を保てず泳げなくなった俺はそのまま暗い水の底へやおら沈んでいく。息もそろそろ限界を迎えたのだろうか、不織布に詰め込んだお茶っぱが湯に融け込むように意識が薄れていく。
俺はそのまま死んでしまったと思ったが、目を開けると今まで見ていたものはすべて夢であって、隣でおっさんが座って俺が起きるまで顔面に薬缶の水を注いでいた。
「初日から寝坊か?」
おっさんは薬缶の水を俺の顔面に注ぎながら俺が起き上がることを待っている様子だった。
その言葉で俺はチラッと窓の外を確認する。しかし外はまだ暗いままだった。
「寝坊って…。今何時なんだよ。まだ外くらいじゃんかよ。」
「四時半だ。これから起床時間は四時半だ。」
俺は目を瞑ったまま渋面をして言う。
「そう言われてもな…。」
「強くなりたくないようだな。」
「おはようございます。」
おっさんの言葉で目が覚めた俺はガバッと跳ね起きてすぐに一階に降りた。台所ではもう既に朝食が用意されてあった。
「おっさん早えな…。猪の肉焼いてたんだ。何時に起きたんだろう。結構時間かかるのに…。」
「早よ食って支度しろ。でもあまり食い過ぎんなよ。」
階段から降りて来たおっさんは俺にこう言って外に出ようとした。
「え、せっかく朝食に肉も入れてくれたのにおっさんは一緒に食わんのか?」
「俺はもう食った。」
「早っ。そんじゃ、肉全部もらっちゃおうっと!」
俺は猪の肉をバクバク食い始める。おっさんは食い過ぎるなと言ったけど、あまりにも美味しいものでたまらなく食い尽くしてしまった。俺は重くなった体で支度を急いだ。どんな修行が待っているんだろう、と随分と浮かれていた俺は支度を終え、バーンと玄関の扉を開ける。外はまだ薄暗いままだった。玄関の外で待っていたおっさんは右手に二尺くらいの長さの細い木の棒を一本持っていた。そして俺にその棒を投げ渡す。
「まずはその木の棒で俺を一発食らわせてみろ。それが最初のステップだ。」
「え?それって修行…?」
俺はあまりにも簡単そうな訓練に間抜け面をして首を傾げる。
「当たり前だ!」
「簡単すぎんだろ!」
「さーて、それはどうかな。」
「こんなくだらない遊びじゃなくてもっとかっこよくて楽しくい修行がしたいんだよ!さっさとこんなの終わらせてやる!」
俺は両手で木の棒をギュッと握りしめておっさんの方に飛びかかった。おっさんが微動だにしなかったからこれは取った、と確信したが、その瞬間俺は不思議な経験をする。確かに当てたはずの棒がまるで空気を振ったようにおっさんをすり抜けた。
「え?なんだ今の。」
何が起きたのかてんで分からなかった。しかも、おっさんはいつの間にか俺の後ろに立っていた。その後、
「遊びじゃねえぞ!!」
と怒鳴り声と共に重い蹴りが俺の右横腹に命中する。
「ケヘッ…!」
俺はその蹴りで森の方に飛ばされた。数秒間の出来事だった。真っ直ぐ飛ばされるうちに三本の木とぶつかった覚えはあるけど、衝突の反動で俺の体はともかくぶつかった木はそのまま弾け飛んで折られていた。そして四本目に木にぶつかりそのまま地面に落ちた。木とぶつかった俺の腰あたりには激痛が走り、暫く体を起こすことができなかった。また、横腹を蹴られたせいで、胃に溜まった朝食を全て吐き出してしまう。
「ぐえぇっ…。」
今までおっさんはこんな馬鹿力で俺を殴ったり蹴ったりしたことがない。だから俺は今の蹴りで余計に冷や汗をかいた。
「いてててぇ…。朝飯全部吐いちまった…。こんなの何回も食らってたら絶対死ぬよ。」
おっさんがテクテクこっちへ近づいて俺の目の前に立った。
「そうだ。これを何度も食らったらお前は死ぬぞ。だから次は避けてみろ!」
おっさんの口が止まるが早いか、足で踏みつけられるところだった。正気に戻った俺はサッと横に転がり飛ばされて落ちた時に落とした木の棒を拾い体を起こした。そしてまたさっきと同じような経験を何度も繰り返す。そろそろ頭に来た俺は文句を言う。
「何で当たらないんだよ!」
「そりゃ、お前の体が鈍すぎるからだろ!」
おっさんは俺を煽る。ムカッとした俺は声を上げて言った。
「いや、おっさんが速すぎなんだって!!」
「俺が何で今まで毎日お前に水汲みみたいな雑用なんかさせてきたと思うんだ!」
「そりゃあさ、あれだろ?おっさんが怠惰な生き物だからだろ?」
「まあ、半分正解だけど違う!身体能力を身につけさせるためだったんだよ。お前は人族よりは確かに弱いけど、一応お前の中にも人族の血が流れているんだ。だったらお前はそれを極限まで絞り出して自分のものにしなければいけない。こうでもしなければお前に勝ち道はないからだ。」
おっさんの真面目な顔に俺は落ち着いた。
「分かった!でもさ、俺も一応半分神なんだろ?じゃあ俺も神才ってやつ使えるんじゃない?」
「両方受け継いでいるとはいえ、能力発現の確率は未知数なんだ。しかも、その能力が強力なものかどうかも怪しい。神と人間の戦争で神が死ぬ理由は何だと思うんだ?」
突然の質問に俺は首を傾げて適当に当ててみる。
「うーん、自分を殺した人間が自分より格上だったから?」
「もちろんそれもある。でも、それよりも主な理由は神が神才に頼りすぎているからなんだ。幾ら強い神才を操ろうとも自分の力に過信しすぎるといつかは敵に斬られてしまう。お前はそんな情けないやつになるんじゃないぞ。」
「へいへい、分かりました。ひとまず体力が大事ってことっすな。」
「分かったのならさっさとかかってこい!」
「おりゃああ!!」
早朝からおっさんを殴るために走り回ると蹴られ、飛び回るとまた蹴られ、裂ぱくの気合が止むことなく森に鳴り響くと、いつの間にか森の崖から夕日が燃えていた。昼飯も食わずに修行を続けたんだけど、結局一発も当てることが出来ず、今日の修行はこのまま終わった。一発でも殴り返したかった。いや、俺が今死んでいないことに感謝すべきなのかな。
「夕飯にするぞ!」
おっさんは帰る準備をしている。俺も体を起こした。が、そのままバタッと倒れてしまう。疲れすぎて体がビクともしない。その滑稽な姿を見ていたおっさんは俺を担いで家まで帰った。俺は居間に寛いで今日おっさんに蹴られてできた青痣を見つめる。少し悔しかったけど、まだ初日だったし、次こそきっとあたるはずだ、と自分を励ましてみる。結局、おっさんからもらった木の棒はおっさんの蹴りを防ごうとした時にポキっと折れてしまった。
「なあ、おっさん。もっと頑丈な棒切れでやったほうがいいんじゃない?あれ結局折れたじゃん。」
「いや、ダメだ。あの硬さでなきゃ修行にならない。」
「なんでよ。ケチ!あ、分かった!あれだろ?自分の蹴りが入らないのか嫌なんだろ?大人げないな、もう~。」
俺はおっさんをおちょくってみる。すると、おっさんは俺を殴らんばかりに殺意のオーラを纏って言う。
「お前がもっと頑丈な棒を持っていたとしても俺の蹴りが入らないことはないぞ?それくらい直接食らったお前本人がよく分かっていると思うがな。」
俺はビビッて一歩下がる。
「た、確かに、あの太い棒でもつまようじのように折れた…。じゃあ、ずっと蹴られろって言うの?」
「防げないなら方法は一つだ。上手く避けろ。それがどんな形でもいい。もし実戦でお前がさっきのような蹴りを真剣で食らっていたら次も何も言うことなくお前はもうとっくに死んでいたぞ。機会すらも与えられないままな。なら、まともに食らうのではなく上手く避けて次というチャンスを掴むんだ。」
おっさんの話に俺は何かヒントを掴んだ気がした。
「なるほど!分かった!明日は絶対殴り返してやるぞ!」
「どうせ、これを教えたところでお前が俺を叩けるようになるとは思わんがな。」
「その鼻へし折ってやるぞ!」
「その前にまずは飯だ。ほらよ。たらふく食って明日まで回復しとけよ!」
「おう!いただきます!」
俺はおっさんと修行の話をしながら夕飯を食べた。そして、ふと昨日のことを思い出した。
「そういえば、愛し合うってなんだ?」
「ん?なんでいきなりそんなことを訊くんだ?」
「いや、昨日おっさんが言ってたじゃんかよ。愛し合って俺が生まれたって。」
俺はポリポリ頭も掻いた。
「そりゃ…。あれだ。お前昨日髪の長い子に会ったって言ったんだろ?その時どうだった?」
俺は最初彼女に会った時を思い出す。そして別れる時の彼女の笑顔を思い出した。
「どうって…。別の世界に住んでるみたいに綺麗だったな…。ちょっと変な気分だったな。」
「お互いその気持ちが激しくなることを愛し合うって言うんだぞ。愛することは人を自分の中で一番大事に思う気持ちだ。」
「でもさ?おっさんは俺みたいな半神は国の悪行で生まれたって言ったじゃん。」
俺は昨日からそれが疑問だった。
「そう。それは事実だが本当に人族と神族が愛し合って生まれる者もこの世には沢山いる。お前もその中の一人なんだ。だから何があっても産みの親を恨んだりはするなよ。」
「どうせ顔を知らないし恨んだりしないさ。むしろ感謝だな!」
俺は笑みを浮かべて言う。すると、おっさんは変な目で俺を見た。
「感謝?」
「そう!この世界は広いだろ?生まれなかったら旅立つことすらできないんだぜ?」
「ガキのくせによく言う。」
おっさんは俺の頭を雑に撫でた。
「俺の母ちゃんの名前はなんだ?」
「お前の母ちゃんの名はアヤメ。俺の友人だった。」
「だった…?今は違うの?」
「いや、なんでもない。」
「ふーん…?」
おっさんはなぜか慌てて部屋に戻ってしまった。俺は一人で卓袱台を片付けて痣だらけの体を起こして風呂場まで足を運んだ。そして温まってほのかに湯気を立てる湯船にゆっくり右足で湯加減を見てちょうどいいと思いそのままお湯に浸かる。
——ウホッ。いい湯加減だ。気持ちいい。でもやっぱり痛いな…。
俺はおっさんの話を思い出す。
「どんな形でもいいからまずは避けろ、か。よーし!明日は全力で避けて殴り返してやるぞ!」
風呂場で大声を出して気合を入れると、外からおっさんの声が聞こえた。
「うるさい!!」
「アハハ…。すぐ怒るんだから。」
俺はお風呂で疲れをとって部屋がある二階へ向かった。階段に登るのにも時間がかかるくらい体は満身創痍な状態だったが弱音は一言も言わなかった。俺は部屋へ入るや、そのままばたっと倒れる。そしてそのまま眠りについた。
パシッ!
竹がぶつかるような鋭い高音とともに頭に痛みが走る。
「いったあっ!!」
爆睡していた俺はあまりにも強い刺激に起きざるを得なかった。
「起きろ。」
右手に竹刀を握っていたおっさんが俺を起こしていた。さっきの竹の音はあの竹刀で俺の頭を打ち下ろす音だったんだろう。
「もっと優しく起こしてくれよ!水ぶっかけたり竹刀で叩き起こしたりしやがって…。」
「優しく起こしたけど起きなかったからこうしたまでだぞ。」
「ぬんん…。」
俺は重い体を動かして下に降り朝食を食べた。昨日と変わったところを言えば、おっさんも一緒に朝食を食べたことと、俺の食事量が昨日より減ったこと。昨日、殺人蹴りで散々蹴られたせいで食べたものを全部吐き出してしまったから今日は控えて適度な量で我慢したのだ。食事を終えて、俺はすぐにおっさんと昨日の続きを再開した。
「今日こそ当てるぞ!」
「もっと早く動け!相手の微妙な動きも見落とすな!」
昨日の傷がまだ完全に治ったわけではなかったので昨日よりも二倍は早く疲れが溜まってしまった。そして、またあの殺人蹴りが俺の腹部を強打する。
「ゲッ…!グエエッ…!」
また吐いてしまった。おっさんは昨日の傷なんかものともせず、容赦なく俺を蹴り飛ばした。
「ま、待ってよ!タンマタンマー!まじで死ぬ!本当に死ぬぞ!昨日の傷で体動かねえんだよ!」
「本当の敵の前でもそんな情けないことを言うつもりか?こんなんじゃ外界で生き残れん!自分の命一つ守れない覚悟だったら惨めったらしく殺されればいい!」
つい弱音を言ってしまった俺に返ってきたおっさんの言葉は俺の全身に命の危険を知らしめた。その本能的な感覚のおかげで俺はおっさんの蹴りを避けることができた。
「死に切れ!大死一番、大活現成の気持ちで臨め!」
「だいし…。なんだって?」
俺は変な言葉に自分の両耳を疑う。
「大死一番、大活現成。世間知らずのお前が一度どん底まで落とされて死を味わえば、そこから足掻き続けて手に入れた知恵で復活することができるって意味だ!」
「死を味わうって死んだら終わりじゃんかよ!」
「死んだつもりで臨めってことなんだよ、このアホったれ!」
俺はおっさんの言葉が何を意味するのか理解できなかったが、三ヶ月の時間が経ってやっとその意味を分かるようになった。そう。俺は三ヶ月もおっさんに触れることすら出来ず蹴られてばかりだった。この三ヶ月間何本もの木の棒を折られたんだろうか。しかし、俺は今日もおっさんに挑む。
「もう今日で一〇〇日目だ!今日こそ当てるぞ!!」
俺はおっさんが動かずに俺の攻撃を待っている時はいつも俺の後ろに立っていることをこの三ヶ月間の修行の中でやっと気づいた。今回もおっさんが俺の攻撃を待っていた。俺は真っ直ぐおっさんに向かって木の棒を振りかぶり、すぐに木の棒を右下に下ろして腹部をガードした。すると、思った通りおっさんの殺人蹴りが右から入ってきた。俺は棒の角度を少し斜めにしておっさんの蹴りを流すように姿勢を下方に下げた。そのせいでか、おっさんの姿勢が少し前へ傾いた。
パチン!
俺はそのまま外側に回って回転した勢いでおっさんのお尻を棒で叩いた。
「当たった…?」
たった二秒の間に起きた出来事だった。俺にお尻を引っ叩かれたおっさんは俺に意外な反応を見せる。おっさんは大きくて短期間では絶対に作れないゴツゴツした手で俺の頭を撫でてくれた。でも有頂天になった俺はすぐおっさんをひやかした。
「へー!馬鹿にしてたガキにケツペンペンされた感想はどうだー!言ってごらんなさい?いぃっ?!」
その瞬間俺の頭を撫でていたおっさんの手に物凄い力が入ってくるのを感じた。
「いてててぇ!!頭割れる!ごめんなさい!悪うござんした!!」
「ふう…。よく頑張った。約三ヶ月でクリアできるとはな。でも、まだこれは氷山の一角に過ぎないからな。ついて来い。」
おっさんは一旦家へ戻っていつも俺を起こすときに愛用していた竹刀を持ってきた。
「第一ステップを突破したから、今日からはお前に俺の剣技の全てを叩き込んでやる。ありがたく思えよ。」
「なんかワクワクするな!」
俺は長かった第一ステップを突破してからあらゆる剣技をおっさんに教わることになる。しかし、俺には到底真似できない系統の剣技が多かった。
最初は竹刀を重く感じていたが、修行しながら水汲みなどの雑用も続けていたおかげなんだろうか、今や竹刀を軽く振れるようになった。体も前よりは少し大きくなった気がする。剣技を練磨して三年という時間が過ぎてからは竹刀や木刀ではなく、真剣で練習することになった。
——真剣って見た目は刃が細くて木刀や竹刀より軽く見えるのに、こんなにも重量あるんだ…。木刀の二倍はあるぞこれ。
俺はその真剣に慣れるまで何回も繰り返し刀を振る。同じ動作を何度も繰り返すのは三年前からおっさんにやらされたせいでもう日課になってしまった。
ある日、おっさんは俺を家の前にある崖に連れて行った。
「おっさんここで何すんだ?だんまりしててよ。」
すると、おっさんは黙って思いっきり俺を崖の下に蹴落とした。
「うわあああっ!!なんじゃこりゃああ!!」
突然起きた出来事で俺は足掻くことすら出来ずそのまま悲鳴を上げながら海に突き落とされる。
「ん…。違うのか。」
訳が分からなかった俺は泳いで陸地に戻りすぐ森の岡を登って家の前の崖に戻った。するとおっさんはまるで何もなかったようにのっそりと刀の手入れをしていた。
「何すんだよ!!殺す気か!」
「あ、戻ってきたか。一つ確認してみただけだ。」
「俺を崖に突き落としたら死ぬか死なないかの確認か!」
「違う違う。神才の加護を受けているのかの確認だ。」
神才の話に俺は今までの三年間を振り返ってみる。
「神才?そういえば、三年たっても特に何もなかった気がするな…。」
「お前の母は海の加護を受けた波の神才を持っていたから、もしや海時お前も母の神才を受け継いでいるのではないか考えていたんだ。でもやっぱりダメだったか。」
おっさんはため息をついた。
「その加護ってやつはどうすれば受けれるんだ?」
「加護は神であれば生まれた時からすでに持っている権能なんだ。普通は自分の親のどっちかの神才を受け継ぐのが一般的だが、先祖の加護を受け継ぐ子もいる。お前に海の加護がないのなら、先祖の誰かの加護を受け継いでいるはずだ。それとも、加護無しかもしれないな。」
おっさんの最期の言葉に胸がヒヤッとした。
「加護無し…。いやあると信じる!必ず見つけてやるぞ!出て来い加護め!」
「鍛錬も忘れるなよ。」
「分かってるって!来い!加護よ!!はあああっ!ごおおおっ!」
そうやってまた三年という時間があっという間に経つ。毎日激しい修行で忘れていたが、六年前のあの日に会った女の子は結局あれから一度も森に来なかった。名前だけでも訊きたかったのに。
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