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エピソード☆5☆
結局あれからも正月は車での俺の送り迎えを止めなかった。
その日は朝から晴れていてさっきまで雨雲ひとつなかったのに、アパートの駐車場で車から降りた途端雨がざ――っと降ってきた。
俺はできるだけ濡れないように走りだそうとしたが何かによって頭からすっぽり包まれてしまった。
コロンだろうか爽やかでそして少しだけ甘い優しい香り。正月の香りだ。
どうやら正月が自分のスーツを脱ぎ、俺が濡れないように被せてくれたようだ。
では、正月は……?
スーツの中から顔を覗かせてちらりと正月を見ればほんの数秒の間に雨のせいでびしょびしょになりなった正月が笑顔で俺を見ていた。
「さ、早く部屋いくぞ! 急げー!」
俺の手を取り走り出す。
スーツのおかげで雨には濡れなかったが、それは突然の雨のように俺に降り注いだ。
沢山の――本当に沢山の『愛情』
俺は嬉しくて泣きたくなった。
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