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エピソード★1★ ①
「葛城、進路のための三者面談終わってないのお前だけだぞ。お母さんは何ておっしゃってた?」
担任の小林 雄太だった。
今時珍しい熱血漢で度々こうやって俺に声をかけてきた。
うっとおしいと思う反面少しだけ嬉しい気持ちも芽生え始めていた。
どうしてこの人は俺にかまうのだろう? 実の母親でさえ見放したというのに。
――――この人は俺の事を愛してくれる?
俺は嬉しさを隠すように不機嫌そうな顔をつくった。
「就職するんで三者面談の必要はありません」
「またそんなこと言って! 葛城は試験はいつも学年五位以内じゃないか、そんなお前が就職だなんて勿体ない!」
「…………」
何度言われても何を言われても俺は大学に行くつもりはなかった。
そもそもそんなお金もないし、生きていくためにお金を稼ぐ必要があった。
担任からは奨学金の話もきいたが俺はそこまで『大学』というものに魅力を感じていなかった。
それに担任の話を受け入れず、こういったやりとりがいつまでも続けばいいのに、とも思っていた。
「葛城、生徒指導室に来なさい。今日はゆっくり話そう」
「…………」
いつもはここで終わりなのだが、今日は珍しく生徒指導室まで行くという。
担任が掴んだ俺の腕がひどく痛んだ。
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