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 生徒指導室に入るとなぜか鍵の閉まる音がした。 「……?」  俺の視線に気づいた担任は誤魔化すように笑った。 「大事な話をするんだから邪魔されたら困るだろう?」 「…………」  優しそうに見えていた担任の目に何かがちらりと見えた気がした。 「それで、な。葛城はお金がないから進学しないんだよな?」  じりじりと近づいてくる担任。少し息遣いが荒いような気もする。 「――ちが……います……」  俺は本能的に嫌な感じがして一歩一歩と後ずさった。  担任はそんな俺を追い詰めるようにじりじりと近づいてくる。  ついに背中に壁を感じ逃げる事ができなくなった。 「葛城の態度次第では俺が援助してやってもいいんだぞ?」 「いら、いらないっ! 大学なんて行きたくない!」 「嘘はよくないなー」  担任の手がするりと俺の股間を撫でていった。  ひっ!  ガタガタと全身が震えだす。 「それにお前俺の事好きだろう? お前の母親も男に媚びて生きてきたんだ。母親に似てお前は綺麗な顔してるんだから男でも可愛がってやるぜ?」  男の瞳に見えたのは欲だったのか。  今ははっきりと雄の欲望を宿していた。  この男は俺が隠した気持ちに気づいていた。  いや、でも違う。俺はこういう事を求めていたわけじゃない。  俺はただ愛して欲しかっただけだ。  嫌だっ! 「やめろっ!」  力いっぱい担任を殴って震える手で鍵を開けて、無我夢中で走って逃げた。  それから俺は学校を休みがちになった。  心配して来てくれる友人もおらず、ひとりの部屋で膝を抱えて過ごした。  そうこうしているうちに四月になって担任が保身のためにか学校側にうまく言ったらしく、特に何を言われる事もなく俺は三年へと進級する事ができた。
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