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エピソード☆2☆ ①
自分に向けられたものじゃなくてもただ聞いていたくて、でも近くに行くことは躊躇われて、だから誰にもみつからないように木の陰に隠れて寝っ転がって耳をかたむけているだけ。
このくらいの距離感が俺にはちょうどいいのかもしれない。
意識が空気を彷徨っていると、突然激しい痛みが右腕に走った。
何が起こったのか分からなかった。
「うわっ」という叫び声とともにどさりと誰かが倒れたのが分かった。
「あいたたた」
寝っ転がったまま右腕を押さえていると成人した男の声が聞こえてきた。
「うっわ、人じゃないか。ごめん! 大丈夫?」
俺に気づいた男は慌てて駆け寄ってきた。
訳が分からずその男をギロリと睨んでしまった。
「まじ大丈夫か? うわーごめんなー本当ごめん」
「…………」
男はどこにでもいるような平凡な感じの容姿をしていた。
だけど優しそうな目元で、それがかえって俺を不安にさせた。
近寄ってきた男は俺の顔を見て一瞬固まったのが分かった。
優しそうなこの男もきっと俺が変えてしまうんだな。
そう思ったらこれ以上俺に関わって欲しくなくて、
「どこ見て歩いてるんですか? 右腕痛いんですけど?」
必要以上に冷たく言って睨んだ。
だけど男は俺の腫れてしまった右腕を見て、痛ましそうに眉根を寄せた。
「びょ……病院行こう! まだやってるはず、急ごう!」
男は問答無用で俺をタクシーに押し込み近くの整形外科へと急いだ。
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