オジサンだけの街

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 この店の様子が映し出されたモニターの前に、一体のロボットと、政府のとある高官が立っていた。 「なぜこんなことが必要だったのだ?」  高官がロボットに訊ねた。ロボットは人間ならこめかみにあたる部分にある赤いランプを二、三度点滅させた後、質問に答えた。 「我々人工知能は人類の過去を学習し、その膨大なデータを元に将来取るべき最適解を出すことしかできません。全くの無から有を作ることはできないのです。」 「それで?」 「過去の踏襲だけでは、人類はやがて衰退するでしょう。それどころか、国同士の力関係が崩れ、戦争になる可能性もあります。これは私だけが辿りついた結論ではありません。世界各国で、人間だけの都市を作り直す試みは始まっています」 「ふむ。しかし一つの都市だけではいささか心許ないな。」 「はい。このバー以外にも、すでに複数の『舞台』は用意してあります」 「これからもまとまった人数の人材を秘密裏に誘導し、複数個の都市を作るとしよう。引き続き協力を頼む」 「承知しました」  ロボットは高官が部屋を出るのを確認した後、自分で音量を限りなく絞って言った。 「人間だけの都市で起こる様々な変数を我々人工知能が取り入れれば、ますます我々のシステムは安定し、高度化する。人類は引き続き我々に踊らされるのだ」  高官は自分の執務室に戻る廊下を歩きながら、こう考えた。極端に高度化した現在の人工知能を維持管理する人材は世界中で枯渇しており、人工知能システムが内部から崩壊するのは時間の問題だ。そうなった時、人間だけで社会が運営できる仕組みを早急に育てておかねばなるまい……。
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