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窓越しでも肌を焼く西日が射し込む狭い会議室で待っていると、恰幅のいい身体をゆさゆさと揺らしながら人事部長が部屋に入ってきた。
「待たせてすまない。ちょっと会議が長引いてしまって」
「この部屋に呼ばれたということは、僕はクビですか」
僕は回りくどいことは嫌いだ。今週何人がこの部屋に吸い込まれ、そして会社を追われたことだろう。
「わかっているなら話がはやい」
「なぜですか。僕がクビになるなら、他にもっと辞めさせるべき人間がいるでしょう!」
僕は椅子を蹴って立ち上がり、テーブルを思う様叩いた。会社では滅多に感情を出さない僕の様子に、部長は少々面食らったようだったが、彼の目の光は冷たいままだった。
「我が社でもついに人工知能を導入することになってね。人間の社員は、人工知能の叩き出す戦略を着実に実行するソルジャーしか必要ないんだ。俺も」と、部長は深いため息をつき、煙草に火を点けた。社内はとっくの昔に全面禁煙になったはずだが、僕は黙っていた。
「解雇通知の仕事が全て終わったら、解雇されることになっている。人工知能の方が採用も評価も正確公平にできるんだそうだ」
プライドを捨てて人工知能の手足になることなどできなかった僕は、退職金が割り増しされることもあって、その場で解雇を受け入れることにした。僕がデスクに戻ると、既にパソコンや書類等は撤去され、私物の入った紙袋が一つ、ぽつんと置いてあるだけだった。あっけにとられた僕に庶務課の社員が言うには、僕が即時で解雇を受け入れることは人工知能によって予測されていたのだそうだ。
一人エレベーターに乗り、無人のエントランスを抜けて外に出ると、真夏のことでまだ空は明るかった。あちこちのビルから、定時で会社をひけた会社員が続々と往来に吐き出されており、その表情や声は心なしか浮き足だっている。そうか、今日は金曜日だった。一見何も考えていなさそうなこんな人達でも、僕とは違い集って飲みに行く仲間があり、毎日通うべき場所があるのだ。家庭でもあればまた違うのだろうが、僕は独身で恋人すらいない。毎日私生活を犠牲にして仕事に打ち込んできた結果がこれか。
これ以上考えるとまずい方向に思考がいきそうだったので、僕は酒を飲める店を探した。なるべくさっきのような浮かれた人間がいない所がいい。少し歩くと、BARと書かれた金属のプレートが付いた、深緑色のドアが目に入った。脇の立て看板に書かれているメニューを見てもなかなか良さそうだ。少し重たいドアを開けると、薄暗い階段が地下に続いていた。
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