あなたが私を選んだ理由に、断固異議あり!

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家にいてもくさくさするから、仕事を探しに出かけるといっては、いつもついついここに来てしまう。 二年程前に出来たこの場所は、瞬く間に噂の的となった。 現実には電車ですぐに来られるけど、気持ち的に言えば遥か遠くの憧れの地だ。 最初はただ観光気分で来てみただけ。 だけど、実際見てみたら噂以上に素敵で… ますます私には手の届かない場所だって痛感した。 普段着で来てしまった私は、いたたまれなくなってすぐに家に引き返した程だった。 それからしばらくここには来なかったけれど、リストラにあってから、なぜだかここに呼ばれるようによく来るようになった。 なんか気分が良くなるんだよね。 ストレスとか嫌な気分が吹き飛んでしまう。 ここにいる時だけは、不安とか何もなくなって、とってもハッピーな気持ちになれるんだ。 ここに来て、私には初めての夢が出来た。 このビルで働きたい!っていう夢。 それが無理だってことはよくわかってる。 ここは私みたいに平凡な人間が来る場所じゃないもの。 最近は、服装にもお化粧にもかなり気を遣って来てるけど、それでも気後れしてテナントビルにさえ入れない。 そこまで気にする必要はないって、頭ではわかってるんだけど、それでもやっぱり入れないんだ。 私のコンプレックスも相当なもんだな。 それに、噂によると、ここで働く人は身辺調査をされて、さらにはセレブな紹介者がいないと働けないらしい。 その上、入社する時には高額の寄付をしないといけないんだとか… 私みたいな平凡な人間には絶対無理な話だ。 そう、私の夢は決して叶うことのない夢…そんなこと、わかってる。 でも、夢を見ることくらいなら許されるよね? 苦笑いを浮かべながら、私は横断歩道を歩き出した。 もう少しだけビルのそばに行って、しばらくそこらを散策したら帰るつもりだ。 帰りは、どこかで安いランチでも食べて帰ろう。
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