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「難しいことを言い出したね。
……とりあえず、君の夢を話してみてよ。」
「え?」
強気で言ったものの、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
それに、もしも本当に叶えられてしまったら…
いや、そんなことはない。
本当に車にぶつかったならともかく、私はぶつかりそうになっただけで、現実にはぶつかってないんだし、そこまで骨を折ってくれるはずはないし、お金も出すはずがない。
「……君の夢は?」
静かだけど毅然とした口調で訊ねられて、私は答えないわけにはいかなくなった。
「わ、私の夢は……」
笑われるかな?
馬鹿にされるかな?
でも、言うしかない。
「このビルで働くことです!」
言ってしまった。
東條さんはちょっとびっくりはしたみたいだけど、冷静な声で訊ねた。
「どんな仕事をしたいの?」
「え?……じ、事務です。」
「事務?」
私が頷くと、東條さんはくすくすと笑った。
なによ、笑うことないでしょ。
確かにつまらない夢かもしれないけど、私は事務しかしたことないし、これといった才能や特技もないし。
正直言って仕事はなんでも良いんだ。
この素敵なビルで働けるなら、ただそれだけで良いんだもん。
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