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慌ててスカートを整えてから窓の方を見上げると、窓越しの男子生徒が梨子を見てふわんと微笑んだ。
(あ、この人……。生徒会長さんだ)
梨子の特技は、初対面で人の顔と名前を覚えること。幼い頃から環境が特殊だったので、努力して身につけた、と言った方が正しいかもしれない。
「生徒会長の双葉(ふたば)です」
昨日の進級式で壇上に上がり、爽やかに挨拶をした生徒会長はとても遠い存在に思えたけれど、すぐそこに現れたのは間違いなくその人だった。
焦げ茶の柔らかそうな髪には、なぜだか葉っぱがくっついてる。
窓に鍵はかかっていなかったようで、生徒会長によって、ガラガラと古びた窓が開かれていく。息苦しかった部屋に、優しい風が吹き込んできた。
「やっほー。ぬまっち、猫見なかった? 三毛猫」
勝手ながらヒーローの登場をイメージしていた梨子にとっても、おそらく沼地先生にとっても、予想外な一言目だった。
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