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 余裕を見せ始めていた沼地先生は、一気にまた青ざめていくけれど、梨子は頭が追いつかなかった。生徒会長は梨子のピンチを察してくれていたのだろう。 それでも、彼女ではないし、生徒会長がそんな嘘をつく理由も思い当たらなかった。梨子を助けようとしてくれたのだとしても、他にいくらでも方法はあったはずだから。 「ほら、梨子ちゃん。おいで」  今度は、梨子の方が犬になった感覚だ。  生徒会長は窓の外から手を差し伸べてくれた。梨子は恐る恐る手を伸ばすと、しっかりと腕を掴まれぐいっと引き上げられた。そのまま両脇を抱きかかえられると、子供が“高い高い”をされる時のように窓の外へ。 「わ、軽っ」 「えっ? えっ!」 驚きながらも、思わず生徒会長の首に腕を回し、首元に顔をうずめるように思い切りしがみついていた。 爽やかな香りがした。  呆気にとられた沼地は何も言えず、手を繋いで走り出した二人の背中を見送るしかなかった。
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