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生徒会長に右手を引かれ走りながら、梨子は久しぶりに普通に呼吸ができている気がした。
ヒーローじゃなかったのはほんの一瞬で、梨子の経験したどんなドラマよりもドラマチックだ。
けれど、裏庭の端まで来ると、ふいに自分の足元に気づいてしまった。
「あ、あの! 生徒……」
“ねえ、芸能人さん”
“芸能人さん、聞いてるー?”
生徒会長を呼ぼうとした瞬間、自分の嫌な思い出が蘇ってしまった。慌てて、先輩の役職ではなく、名前を口にする。
「双葉、先輩! あの」
双葉は足を止めると、気遣うように梨子の顔を覗き込んだ。
「はは! ごめん、俺、走り過ぎたよね」
先輩なのにいたずらっ子のような無邪気な笑顔を向けられると、梨子の心臓はドキッと跳ねた。その衝撃で、何を言おうとしたのか一瞬分からなくなった。
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