5 きっとあなた咬みつく

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「ホッ!」と、小さく息を吐いて、 何もなかったように 玄関ドアを開けると、            『カチャ!』 「 茉由ちゃん?  お帰りなさい、  佐藤さん、来てるわよ!」 家に着くなり 茉由は驚かされる。            「エッ?」 「おかえり、     茉由!」                    「 翔太?            どうして…」         …ドキッ!             …ドキドキ 「あぁーあ、遅かったな?  だ・か・ら、車で、   送るって言ったのに…」 佐藤はサラッと、 爽やかな笑顔を茉由に向ける。              …ンッ!…          「 エッ?             うん…」        …ドキ                …ドキ 茉由は、 コロコロと変わる、この、豹変男に振り回さ れて、クタクタに疲れていても、なにも知ら ない母の前では、 そんな佐藤に、合わせるしかない。 「ねぇ、茉由ちゃん!  佐藤さん、こっちに、  還ってきたんですって💛」     …ドキドキ          …そう、だけど… 茉由はまだ玄関に立ち竦んでいるのに、 自分が、一番大切にしている愛娘の、 強張った表情に気づかずに、 無邪気な小娘の様に、 ゼンゼン空気を読まず、 お構いなしに、 嬉しそうに、母は茉由に話す。             「 うん…」       …ドキドキ          …お母さん            チガウノ             オネガイ…    …ドキドキ 茉由は、 この状況が、もどかしい… 佐藤は、 どうして、こんなに、 スマシタ貌で、 ここに居るのだろう… 「茉由ちゃん?どうしたの?  早く入りなさい。佐藤さん、  お土産まで持ってきてくれて、  ほら♡子供たちも、喜んだのよ、             これ‼」          …お母さん            それは、ね…      …ドキドキ 茉由の母は、食べかけの、お煎餅を、 茉由に見せた。そんなに、 お行儀の悪い事をしてしまうくらい、 佐藤が、訪ねてきたのを 歓迎しているのだろうか、 「これ!『たこ焼き味』なのよ、  子供たちも、ゴハン前なのに、  喜んで食べちゃって…、    どうしましょう!フフフッ♪」           「へぇ…そう、              なんだ…」      …ドキドキ         …ねぇ、          お母さん…            オチツイテ… そんな母の、はしゃぐ様を、冷たい目で、 茉由は、見てしまう。         …お母さん、            違う、よ、私、           恐い、の、            タスケ…テ!...      …ドキドキ 「 あっ! ゴハン前でしたね、  スミマセン。でも、  男の子だから、きっと、  ゴハンもたくさん、   食べますよ、  お母さんの料理、    美味しいですから!」          …ドキッ!              「うっ…」 佐藤は、 よく気のつく、大人を装う。 「まぁ…、お上手!  そうだわ💛佐藤さんも    🍚食べていってね!」            …ドキッ!        「なに!言ってるの?            どう、して…」        …ドキドキ          ...違うってば、              ヤメテ!…          …ドキドキドキ 「ありがとうございます!  嬉しいなぁー、  善い、時に来たな、『僕』!」              「な、んで…」           …ドキドキ              …ドキドキ         ...そんなに簡単、           に、言わないで… 佐藤は、 爽やかな笑顔を茉由の母に魅せた。 茉由の前で、この、2人は勝手に喋る。 でも、その笑顔は、本当に爽やかで、 それを、 一緒に魅せられた茉由はキョトンと した。            …どうし、て…       「どうして、翔太は、         こんな事できるの?」 茉由の呟きのような声は、 小さくて? 明るすぎる茉由の母と、 爽やかな佐藤には、 ゼンゼン、 聞こえないようだ。 茉由は、さっきまでの、恐怖を通り越して、 不思議な感覚になってきた。いま、ここに居 ても、なんだか、傍観者のようになっている。               「......」 すると、 こんどは… 「おかあさぁーん、  おかえりなさーぃ!」 下の子が茉由に跳びかかってきた。 その勢いで、茉由は、ハッと我にかえる。              …あっ!…            「ただいま…」 「 おかあさん!はやくぅー、  キョ・ウ・ハァ、  サトウさん、きてくれたもん!  いっしょに、       みんなで、ねぇー」  「 いいよねぇー!」 「 はやくってばぁー‼  ねぇー  おかあさん?      きがえるんでしょ!」                               …ンンン? 下の子は、茉由の腕を引っ張り、 洗面室に入れようとする。            …えぇぇぇ…          「う、ん…」    …ドキドキ           …あぁ~…              モォ~… 茉由の家族(夫以外)は、 関西で、さんざん、 世話になった、 良くしてもらった、 佐藤の事を、すでに、 身内の様に受け入れている。 ― 佐藤は、 茉由を愛しているだけじゃない。 関西で、一人で頑張る、 「母としての茉由」を、そして、 茉由だけじゃなく、 「茉由の家族を守りたい」 この佐藤は、なぜ、女としてでは なく、母としての、茉由を、 守ろうとするのか… 茉由が、いつも、心を痛めるのは、 茉由のせいで、大変な思いをさせ ている、子供たちの事、 そして、茉由が、自分で望まなく ても、抱えているものは、病気と、 理解できない事が多い、夫。 人には、それぞれ、 背負っているものが、あったり、 抱えているものが、あったり、 心に閉じ込めている、ものがある。 それは、佐藤にも、 佐藤の、かすかな、母の面影は、 「辛そうな顔」「酒に酔った顔」 「何も喋らない、無表情の顔」          の、母だった。 でも、母を、嫌いじゃなかった。 自分が子供だから、 「母を守れない、自分が嫌だった」 佐藤は、 そっと、 茉由がチャンと歩いて往 けるか、見届けていた。 そんな、 茉由の「力ない後姿」を 何度も、見ている。 だから、 自分の母を守れな かった、その気持ちが、 また、フツフツト、 大きくなって、 それは、今度は、 その、 「茉由」に向かった。 そこからは、  佐藤は、 「茉由を守る」ようになる。 お母さんとしても、頑張る茉由を、 「護る‼」 その為に、自分は、この会社で、 「強く」なろうと決意した。 この会社で、強くなる。その為に は、上司で、大学の先輩で、水球 部のOBのGMは、「大事」だった。 自分がこの会社で、力をつけられ るまで、どんな事よりも、 その、GMの事を優先した。 GMが、「鷹狩が好きならば」、 その鷹になる。ヨゴレ仕事をして いる自分を、同期の誰にも、気づ かない様に、皆とは離れていた。 そして、そんな、自分の裏の顔を、 思い続ける、茉由には、絶対に気 づかれないようにした。     ― 佐藤は、同期の中で一番早く、 昇進していき、 当時のGMの後ろ盾で、 エリアマネージャーとして、 茉由を追って関西へ入り、 茉由のすぐ、近くにいた、 高井を、茉由から遠ざけて、 自分が、茉由たちを守った。              「......」 いま、も、 子供の嬉しそうな様子に、 茉由は、また、頭の中が、 グジャグジャになる。               …ンンン          「ふぅー!」        …やっぱり、         子供は、         翔太が好きなんだ…        …あの時は、         翔太は、本当に、         良い人だったから…        …でも、私は、         さっき、車で、            怖かったの…        …私、あんなに、         ジッとして、           頑張ったのに…         翔太は、それを…          分からないの?… 佐藤の、スバヤイ? 理解できない行動に、 呆然とした、 ドンクサ、く、 不器用な茉由は、 佐藤のようには、 コロコロと、 自分を変えられずに、 今日の、つい、さっきの(茉由は頑張った がムダになってしまった)多摩川での事も、 誰にも、なにも、言えずに、小さく、 「ハァー!」っと、息を吐くと、諦めたよ うに、ようやく、 ノソノソと中に入り、ゆっくりすぎるほ どの動作で、手と顔を洗い、      …ドキドキ            …どうしよう… 着替えを済ませて、 またゆっくりと、            …翔太は、             どうしたら、           分かって            くれるんだろ… 躊躇いながら、 ダイニングルームへ入った。              『カチャ』       …ドキドキ            …やだ、な…                           「……」 そこには、                      …あぁ…             …ドキドキ もう、佐藤が… まるで、家族の様に、 ちゃんと、 テーブルに着いていた。 そして、 もう1人… 「おかえり!」             …ドキッ⁉         …うっ!わぁぁぁ… その聲に、 茉由は凍りつく、           …ドキドキドキ         …えぇ~‼こんな ⁈            ときに ⁇…             なん、で ❔… ダイニングテーブルには、 佐藤と向かい合うように、 夫も腰かけてい、た。        …ドキドキ             …ドキドキ            …ドキドキ ㊩...           「どう、             したの?...」                     …これ?               なに?… 「 どうした茉由?  あっ、お母さん、茉由の椅子?  どうします?『僕』    先に、座っちゃったから…」 佐藤は、とぼけて、 茉由の居場所を 心配したように装う。     「大丈夫よ、      茉由ちゃん?      寝室から、      椅子を持ってきたら?」            …えぇ~!… 「あっ!   では、私が...」             「えっ?」           …ちょ?…               ヤメテ… 夫は、茉由の方を視ずに、 寝室へ向かった。 茉由は、固まり、 動けないのに、 眼だけは、 キョロキョロとする、          …なんで           こんな、こと?             に、なるの… ドアを閉める 夫の背中を 確かめた茉由は、           「翔太?              どうして?」 何度も、同じように繰り返している、茉由の 問いに、佐藤は、聞こえないフリをする様に、 なにも答えずに、ただ、微笑み返した。 「... ...」 でもそれは、 営業用の笑顔で、茉由には、 なにも、伝わってはこない。            …どうするの…               これ?…    …ドキドキ        …ドキドキ 「いただきます!」弟と 「いただきます!」お兄ちゃんと 「いただきます!」佐藤と、 「はい、メシアガレ!」母も、明るく、 同じトーンで声を出す。 「いただきます」夫は穏やかにゆっくりと、 「いただきます」茉由も、少し遅れて席に      着いた。この異様な光景の中へ。             「う、ぁ...」             …もう…                ヤダ… 茉由の前では、 無表情の夫以外の、 茉由の家族と、 佐藤が、 嬉しそうに、和やかに、茉由の母が、愛情、 タップリに拵えた、茉由好みの料理が並べら れた、ダイニングテーブルで揃って、 一緒に、夕食を、食べて、いる、 茉由の夫は、目の前の、 大きなオーバルのテーブル越しに、 茉由と斜向かいに落ち着き、 茉由の動きを、無表情のまま、 不気味に、沈黙を守りながら、 目で追う… でも、 佐藤は、全く、気にしない。 「あぁー! なつかしいなぁ…  やっぱり、  お母さんのゴハン美味しいです!     おかわり、良いですか?」 佐藤は、もう、カラッポの🍚茶碗を、 茉由の母につきだした。    「もちろんよ、     たくさんメシアガレ!     関西の頃が懐かしいわネ、     私の料理、こんなに、     美味しいって言ってくれるの、       佐藤さん、だけだもの!」 茉由の母は、佐藤の豪快な食べっぷりを、 懐かしむ。それに、茉由の母だけじゃない、 「バーバ、ぼくもぉ、     おかわり!」 弟も真似をして 「俺も!」 お兄ちゃんも、手を伸ばす。 子供たちも、再び、訪れてくれた佐藤に、 アッという間になじみ、興奮して、 ハシャギだした。 ダイニングテーブルの上には、 子供たち、と、茉由の母、と、佐藤、の、 明るい笑い声が添えられる。 キャッ!    キャッ!           ガヤガヤ…♫♬  ハハハハハッ…            フフフッ♪              「......」 茉由は、ドコヲミタラ、 良いのかも判らずに    …ドキドキ 動揺しているのに。  …ドキドキ 「佐藤さんのおかげで、  今晩は、ずいぶんと  賑やかな夕食になったなぁ!」 夫は「主人」らしく、客人の佐藤に同調し、 感謝を述べる、が、子供たちが佐藤に懐い ている様子を魅せつけられ、 佐藤に向けられた眼差しは、 鋭くなる。 それに、なんだか… 自分に興味を持たせるように、 急に、全く関係のない話しをする。 「あぁ...、そうだ、な、  今日は、もうすぐ、  San Franciscoで行われる、  学会に出席するから、  スーツケースを  とりに来たんだが…、  佐藤さんに、遭えて     良かったよ、うん…」 「関西で、『君たち』が  お世話、に、なった!  お礼も言えたし…、まぁ、  これからも、私が留守中に、  子供たちがなにか困ったら、  父親代わりに、甘えさせて   もらおうかな?ハハハハ…」 夫は、茉由に向かって、 嫌味のように、余裕を見せ、る。               「......」 けれど、 佐藤が、堂々と、 さっきから、 目の前で、何度も、何度も、 茉由のことを、 「呼び捨て」にするので、 夫は、いまだけは 茉由のことを「君」と云う。               「......」 「そうだ…、『君』?  子供たちを連れて来るか?  今回は、そのまま、  U◎SFにもお邪魔するから、  あっちに、3か月ほど     居る事になるが…」        「私は、         あの町はちょっと…」 茉由は、なにも躊躇わずに、 すぐに、返事をした。 「そうか?」           「スミマセン…」 「まぁ…、良いさ、  身体を大事にしなさい。 『君』は、  無理をしなくて善い」             「…はい」      …「子供たちを連れて…」?         そんなこと…、         今まで言ったことが              ないのに… 子供たちですら、なにも聞こえないように、 珍しく、父親らしいことを言い出した様に 呆れて?静かにしている。 2人とも、「往きたい」とは、言わない。 佐藤も、子供たちの様子に合わせて、 穏やかな笑みを浮かべたまま、 沈黙を守る。 茉由には、 この夫が、理解できない。             …なんで…            …どう、              しよう…            こんなこと、            ゼンゼン…            …分からない…              「......」 茉由は、静かに、 椅子を引いて、 その理由を、 なにも言わないまま、 「fade-out」を行使した。 この「和やかな修羅場」に、不器用なので、 居た堪れなくなり、食事もあまり箸が進まず、 静かに、この場を離れる。 茉由が、いま、感じている、 不安や、 落ち込む、心持は、 夫の事、じゃない。 いつも不在の、たまに、顔を見せる、 たとえ一緒に居ても、 なにを考えているのかが分からない、 夫の前では、子供たちは、 あんなに無邪気にハシャガナイ。 母親として、 子供たちに、我慢をさせているのを 申し訳なく思っている茉由は、 こんなに、嬉しそうに、 ハシャグ、子供たちを観ると、 それほど、家族に良くしてくれる、 関西に茉由たちが居た時にも、 ほぼ毎日のように、 茉由の処に寄っていた、 佐藤の事を、 拒絶することが、 悪いことのように、思わされる… 息苦しい…       …私、だけじゃ…、        子供たちは、        こんなに…、        嬉しそうに、しない… 佐藤は、茉由の家族の前では、 「良い人」なのが、困る。                     ...翔太、             ずるい… 茉由の家族は、 佐藤が、急に、 豹変するのを知らない。 いま魅せているのは、 営業用の佐藤の顔なのに…、 茉由は、 独りでフラフラと、 ダイニングルームから出ると、 いつの間にか、            『カチャ』 茉由は、 寝室で、 ぼぉ~っと、 ベッドに腰かけていた。 すると、       ❕…               ♫♬♩♪… 静かだった空間に、 スマホの、 メッセージを知らせる音が、 無神経に、鳴った。 茉由は、 条件反射のように、 頭は、働かないのに、 手と目は、動かした。 『 GMのこと、  旦那は? 子供は?   知ってるのか?』 『 いま、俺が、  ここで話したら、  おまえは、どうなる?』      …ドキッ⁉           …ドキドキドキ           「…ウッ!」                  どうして⁈ 翔太…         なんで、急に…              変わるの?…                    分からない、よ...  🧀…             ❕“  🐁?… 寝室に居た茉由は、佐藤のメッセージに驚き、 勢いよく腰かけていたベッドから立ち上がる と、 ドタバタ!と、 ドアのところまでは進んだものの、 ドアノブに手を掛けたまま動かなくなった。 ダイニングルームには戻らず、 寝室から、佐藤にメッセージを出す。 いま、ダイニングルームに戻ると、茉由の母、 子供たち、夫が勢ぞろいしているので、佐藤 とのやりとりが、しにくくなる、と、思った。 茉由は、 佐藤を落ち着かせようとした。        『 翔太?関西では助けて         もらったけど、ここは         主人が、帰ってくるの 』        『 関西とは違うでしょ、          もう、大丈夫だから 』 佐藤は、 ダイニングルームで皆と一緒に、茉由の母が 懸命にこさえた、茉由のための、カラダに優 しい愛情たっぷりの食事を、ゆっくりと楽し みながら、 片手でスマホをイジリ、 茉由にサクッとメッセージを、 『 でも、いつもは  帰ってこないだろ?』            『 それも、             知ってるの?』 『 後輩に  見張らせてるって   言ったじゃん、』             …あっ、… 佐藤は、関西のマンションギャラリーで、 そこの責任者として仕事をしていたが、 派閥の違う、高井寄りの職場のstaffを まとめる事ができず、 部下が起こした「社外秘書類誤送付」の責任 をとって関東に戻り、グループ会社へ出向さ せられたのだが、 それは、 その間、先に関東へ戻った、 茉由の事が気になり、 責任者として関西に居るのに、そこでの役割 も果たさずに、茉由の方を向き続けたのが、 原因だった。 佐藤が、 グループ会社へ出向させられると、 その、原因を何も知らない、 佐藤を心配した 咲、梨沙、茉由、 佐々木は、 同期として集まったが、 皆には、 なぜ外されたかについては、 濁したまま、はぐらかし、 佐藤は、茉由が不審に思っていた、 茉由の家の前に停まっていた 車について、 大学の後輩たちを使って、 様子を見張らせていたと、 茉由にアッサリ伝え、謝った。 でも、 佐藤の気持ちは、 収まってはいなかった?         …「言ったじゃん…」           って、           だから、それ、            オカシイのに…              「......」 『 でも、俺がこっちに  還ってきたから、もう、  後輩には頼まないけど、』              『 そう、』            なんで、翔太は、            勝手にいろいろ、            決めてるの…         …オカシナことなのに 『 で、どうする?  俺、旦那に話すか?』             …エッ…         …話すって、なに?…          翔太、GMのこと、           誤解してる?… 茉由は、 動かしていた指が止まった。 でも、 『 話したら、  旦那、どうなる?』 『 子供たち、は?』 『 お母さん、は?』 佐藤は、 指を止めることなく、 メッセージを出し続ける。      …ドキッ⁉           …ドキドキドキ          …なんのこと?…         …翔太が分からない…                …ヤメテ!… 茉由はスマホを投げ出したくなる。 もう見たくはない。でも…、          …止めなきゃ!… 佐藤の動きが速すぎて、 追いつめられた、 茉由は…         …ドキドキドキ            …ダメっ!…                    『 翔太、子供が           哀しむ事するの?』 ✖🐁!…  🧀.. 茉由は、 責任転嫁をするような メッセージを返した、 『 おまえ、自分のこと、   棚に上げて、それ?』        …「棚に上げ…」って、          なにを、          誤解されているの、                私…         …翔太が、なにを?…            分かる?の…   …ドキドキドキ           このままじゃぁ…         …やだ!            止めなきゃ…      …ドキドキドキ         『 でも、』         『 そうなるでしょ、』 ❕ 🐁…‼      🧀.. 茉由は精一杯強がってみた。指は震えて、 上手く動かない。でも、必死だった。 そんなに?… 佐藤が、 な・に・を、 話すのかも分からないのに、 これでは… 茉由は、 過剰な反応なのだろうか、             「うっ…」 茉由は、 眉間に皺を寄せて考える。        …翔太の         後輩さんたちの車は、         いつも…       家の前で気づいたから…       そこに車を停めて、       見張っていた、だけ?…         もしかしたら…         GMに車で          送ってもらった…          翔太は、          それ、を…、        そう、だと、したら…             翔太は…、 たしかに、            🚗… 茉由がよその男の車に乗って、 仕事から帰ってきたら、 でも、GMは上司だし、 佐藤だって、茉由を、 自分の車で送って… ??? ❓ ??? ❓              「……?」 茉由は、 また、頭がグジャグジャ、 🐁・・? なんだか、 分からないまま、 でも、追いつめられて…、 佐藤を止めようと、 必死だった。 窮鼠は、猫を咬むし、🐁⁉    🧀.. きっと、トラだって、  🐯? クマだって咬む!       🐻…? …チュ~‼ ✖🐁! 佐藤は しばらく指を止めた。 『そうだな、』 佐藤は 短いメッセージで終わらせた。           …どう、              するの…     …ドキドキドキ          …ドキドキドキ          …やめた?…              翔太?              「……」 茉由は、迷った、 この、佐藤からの、 最期のメッセージの意味も、 分からない。 佐藤は、 なぜ?こんなことを? なぜ?ここで、 終わらせた?のだろう。 茉由は呆然とする。 佐藤は 終わらせても、 佐藤が居る場所には、 子供たちも、 茉由の母も、 夫も、居る。 寝室に居る茉由には、 その様子は分からない。 佐藤は、 ダイニングテーブルに、 まだ、 着いていた。 「 スミマセン、仕事の、  連絡が入っていたので…」 佐藤は、スマホを胸ポケットへ入れると、 爽やかに笑顔を添えて、短く、説明をした。       「 お忙しそうですが…、           大丈夫ですか?」 なにも分からない夫は、一応、とりあえ ずでも、同席している佐藤を、気遣う。 夫は、ずっと、 佐藤が目の前に居るのに、 穏やかな表情をしている。 子供たちと 茉由の母も居るこの場で、 プライドが高い夫は、 堂々としていたいから。 「 えぇ…、   もう済みました 」 佐藤は、 サラッと返事をした。 やはり、終わらせた? 佐藤は、なぜ、終わらせたのだろう、 このままで、良いのならば、それは… 佐藤は… 茉由の夫の前なのに、 茉由の母の事を 「お母さん」と呼び続ける。 「 あぁー、お母さん、  今日は、楽しかったです。 『僕』は、独りだから、  こっちへ還ってきても、  誰も待っていてくれませんし…」 佐藤がアッサリ話題を変えると、    「 そうよね…、     いつでも、イラッシャイ!     子供たちだって、こんなに、     楽しそうだし、私も、     また、関西の時のように、     佐藤さんの、楽しいお話を          聴きたいもの!」 「 そうですか? それでは、  次回は…、関西の、  お笑い劇場に遊びに    行った時の話でも!」 すると! 「そうなの?  誰が出てたやつ?」お兄ちゃんも 「そうだよ、だれ!だれ?     きになるよー!」弟も反応した。   「 私も、関西の    お笑い芸人さん好きだわ 」 茉由の母も興味津々だった。 「 ではでは…、    また… 」 佐藤はニヤリとし、 もったいぶってみる。 「 えー!いまで、  イイじゃん!」弟は食い下がった。 ここで佐藤は、 夫が、しないことをする。 「 ハイハイ!」 佐藤は嬉しそうに 弟に抱きついた。 「 わぁー、やだよー、  お・も・た・いぃー!」弟は照れる。 「ヤメテクダサイ!」お兄ちゃんも、 フザケテ、 大げさに佐藤の腕を引っ張る。 「 おっ!とっと…」 佐藤は、 子供2人を巻き込みながら、 テーブルから離れて、 床にバタン!と倒れ込むと、            … ガァォ~!… そのまま、    … キャッ! オッ ‼ 3人でジャレ合った。    … ワァッ! 茉由の母は、 柔らかい表情で見守る。   … キャッ!    … キャッ!       … やだよぉ~!… … ガォ~!…          … ゲッ!もぅ~ ❣       ハハハハハ! 夫は…、 楽しそうな笑い声が、すぐ近くで、 響きわたる中、その様子から目を離し、 無言のまま、食事を続ける。 この夫は、 大学病院の外科医で教授。 茉由の不貞を疑い、 そんな茉由に 制裁を加えるために、 茉由に、 いらない手術や、 治療を施し、 副作用の強い薬を 飲むようにさせて、 病気と信じ込ませ、 行動を制限してきた。 そしてそれは、 この家族にも影響があり、 子供たちは、 茉由が勝手に、 その薬を拒み、 関西に往くまで、 その間の、5年以上も、 茉由に、 近寄る事が、 できなかったし、 この家には、 誰も訪れる人も居なかった。 茉由は、仕事を理由に、 この夫から逃げたくて、 子供たちを連れて、 関西へいった。 そこでは、 薬を飲むのを止めて、 白血球の数値が、 健全な人と同じになった、 抵抗力も戻ってきた茉由は、 やっと、やっと、 念願だった、 子供を抱きしめる事が、 できるようになった。 そして、 茉由を思い、 追いかけてきた 佐藤が、 茉由と、 茉由の母と、 子供たちを護っていた… 夫は、今日まで、そんな、 関西でのことを、 なにも、知らなかった。 夫は、目の前で、 子供たちが「よその男」に ジャレツイテいるのに、 それを「ミセツケラレテ」いるのに、 取り乱すこともなく、不気味に、 平常心を保っているようだが、 この、自信家の、賢い夫は、 このままでは... ここに、自分の居場所がない事が、 ???、分かったのだろうか、 独り、 テーブルに着いたまま、食後のコーヒーを、 ゆっくり、時間をかけて飲んでいた。 なにを、 考えているのだろう… 佐藤は... 楽しそうだった。 この夫に、 子供に慕われている自分を ミセツケテ、満足そうに、 子供たちと、無邪気にジャレ合う、 クマのヌイグルミのようになっていた。 茉由は、 夫から制裁を受けている事を。佐藤には 話していないのに、佐藤は、この夫婦の 関係を、どこまで分かっているのか… もしかしたら、 佐藤は… 茉由が佐藤と話を、したがらないから、 佐藤をさけるから、 『自分を、分からせるために』 あの、 メッセージを、 ブツケタのだろうか、 だから、さっき、 「えぇ…、  もう済みました」 っと、メッセージの件は、 結局、 茉由以外の者には、なにもしないまま、 終わらせたのだろうか、 そうして、 夫には、全く、別の、 子供との、仲の良さをミセツケテ、 『自分の方が、  子供たちに求められている』 っと、アピールしたのだろうか… 『自分を、分からせるために』 それとも… 寝室に逃げた茉由は、なにも、 ミエテ、イナイ。 夫の事も、佐藤の事も。 でも、そのまま、ずっと、 寝室から、出なかったのは、 茉由は、佐藤が、 恐かったから。          …翔太、               GMと、          ゼンゼン、ちがう…                       分からない…              「......」 茉由は寝室に入ったまま、 どれくらいの時が過ぎたのか、 賑やかな、 食事の後の、          ☁ この夜…        ☁ 🌕 ...     ☆…         ☁  ☆...   佐藤は、 優しい男のまま、帰り支度をし、 玄関まで見送りに立った茉由の母に食事の お礼と、軽くサラッ!っとひと時、ハグを して驚かせると、ドアを閉めて外に出た。 そのまま、 佐藤は、確かめる様に、 ゆっくりと茉由の家の 周りを歩きだす。 右斜めに視線を送りながら ラティスに沿って歩き、 庭のウッドデッキ、そこの、 大きなリビング窓が観える前で、 立ち止まる。 和かな照明の明かりが漏れるその窓に、 下の子の、 ガラスに、両手をパーにしてピッタリつけ、 冷たいのに、額をベタッとつけて、 暗い夜道にいる佐藤を探す姿を見つけた。 佐藤は、 口の前で右の人差し指を立てて、 「シーッ‼」のポーズをし、大げさに、 両腕を大きく揺らし、身体全体で、 バイバイをして魅せた。 下の子は、 急いでお兄ちゃんを連れてきて、 2人で、「シーッ‼」のポーズと、 バイバイの、お返しをする。 佐藤の前では、父親が不在のこの家で、 いつも「家の長」として頑張っている、 お兄ちゃんも、子供でいられる。 これは、 佐藤の演技か、 焦がれる思いから、するものなのか、 佐藤は、 大きな口パクで、 「オ・ヤ・ス・ミ ❣」っと、伝えると、 それで、 満足そうに、帰っていった。 夫は、すぐに、 病院には戻らずに、 ゆっくりと、 茉由が居る寝室へ入った。 けれども、 いくらでも、自分が気のすむように、 茉由に、直接、関西で、 佐藤を、 家の中に入れた事を 問いただす事も、できるはずなのに、 なにも、尋ねない。 茉由は、今日、自分が帰宅するまでに、 夫と佐藤が、なにをしていたのかも、 分からないのに、訊かない。 茉由は、 佐藤に心を乱されたまま、 クイーンサイズのベッドに、 独り、ではなく、 何日も、何週間も、 何か月も帰ってはこなかった、 ついさっきまで、 貌も、聲も忘れていた、 この男が夫だと、 思い知らされる。 「 茉由… 」          「 ……!」 ベッドで横になっている、 茉由の眼から流れ出た涙が、 温かいまま、左の耳の方へ流れた。 涙が出てしまうほど、      思っては、いない人の傍、 佐藤にも咬みつかれ、傷ついている茉由が、 佐藤と較べるように、思いを馳せた、高井。 前GMを堕とした、佐藤の不倶戴天の敵、 GMになったばかりの高井が、 いま、思い、護ろうとしているのは、 茉由ではなく... 🌹 … 自分のために動く女にスルための、 社会人1年目のミオン… ...🌹 先日、茉由の前で、✨キラキラと輝き、 茉由に、甘えるような笑顔を魅せた、 ✨✨✨ 茉由も、可愛く思い、これからに期待した、 社長室前の受付に配属された、「高橋美音」                ✨✨✨ 茉由もミオンも、まだ、それに気づかない。 夫は、 まだ、家族が誰も起きてこない、 朝が来る前に家を出た。 たった独り、 まだ、皆、ベッドの中で、 家族は誰も見送れないのに… 夫は、 空のスーツケースだけを持っていったが、 なかみは、どうするのだろう、 家族の誰も知らない、 よそに、自分のモノが揃った、 部屋があるのだろうか、 そこには… シングルの? ココと同じクイーンサイズの? ベッドは、1つ、なのだろうか…               ×? 🖊📚  👓...      🖊📚 咲は、 直属の上司、設計部長のdesk前に 立っていた。        「 部長、ご相談したい           事がございます 」 「 どうしたの?  良い事?それとも…」 デスクワークが長いから、運動不足の、 今日も眠たそうな、もうすぐ54のオジサン 部長は、ゆっくりと顔を上げ、かけている メガネの、 レンズが重たそうなフレームの、かかり具合 を直すように、 自分の頬に両手の平を挟むようにしてあてる と、一番長い中指の先でメガネを押し上げ、 キョトンとした。 この部長は、優しい。 なにかあっても、感情的にはならずに、 いつも部下に諭すように云って聴かせる 上司。      「はい、私にとっては、        良い話になればと…」 咲は、穏やかな笑顔をみせた。それでも、 もう、なにか、覚悟をしたような感じで、 真っすぐに、部長をみつめる。 「 そう、か…、では、  今からでも、僕は、  大丈夫だから、  打ち合わせboothに       行くか?」       「ありがとうございます」
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