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「もしかして何か事件に巻き込まれたんじゃねえの」
クラスの中で一番人気のあるガキ大将の神田君の声が響きました。
それを聴いたみんなが「え?誘拐とか」「でも門はどこも閉まってるじゃん」「ニュースになるのかな」「宇宙人の仕業だ」とかあちこちで議論されるような形になりました。みんな心配はしているけど、どこか嬉しそうです。
ドアが開かれて先生が戻ってきて、またシーンとなりました。
先生は教卓につき、何気ない感じを装い教科書を開きながら「トイレ掃除の班は、4班だ。4班、トイレにはいなかった?」と訊きました。
「いなかったです」と4班のみんなが答えました。
「そっかそっか、とりあえず多分校舎のどこかのトイレにいると思うから、まぁ大丈夫だと思います。荷物あるんだもんね」
「先生、誘拐とかないですよね」
神田君がそう言葉を発した時に、みんながクスクス笑った。
「うん無いよ。門とか全部閉まってるし。大丈夫だ。あとみんな笑いごとじゃないぞ」と表情が急に一変して、また重い空気が流れました。
「じゃあ、みんな教科書開こうか。授業を始めよう。宿題も出してたし」
と言って社会の授業が始まりました。
私は教科書とノートを開き、筆箱から鉛筆と消しゴムと赤ペンを取り出しながら、ふと空いている中森さんの席を見ました。
今、中森さんはどうなっているんだろうと想像しました。
そして、私は絶対に中森さんのために何も言わないし、知らないフリをし続けようと心に決めています。その方が中森さんも安心するだろうし、また何か言って、みんながワイワイするのがとても嫌だったからです。
中森さんはきっと私がみんなに何か言っているのではないかと、不安に思っているかもしれないから、あとで電話をかけて言おうと思っています。だって私中森さんが少し好きというか気になっているから、そういうのも何かみんなにバレたくないので、私は昼休みに中森さんを見たことを絶対に誰にも言わないと誓いたいと思います。
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