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御山さん
中森さんが消えました。
中森さんとおなじ班である人達は、近くの席にいる人達に「分かんないだよ俺達にも」とか言っているのが聴こえてきます。5時間目のチャイムが鳴り、先生が来てないのをいい事に、教室内がザワザワとうるさくなってきました。
前のドアが開かれる音がして、水戸先生が入ってきた瞬間に、波が引くようにみんな話すのを止めました。先生が教卓で抱えていた教材をどんと置き、準備しているときに、中森さんと同じ班の班長でありクラス委員長の花山さんが手を挙げて「せんせーい、中森さんがいないんです」と言い出しました。
顔を上げた先生は「は」と言い、表情がポカンとしています。
「掃除の時からいなくて」
花山さんは細くて高い声で続けて言いました。すると、他の班の同じ人達も「そうなんです」と加勢しました。それは花山さんを援護するかのようにも見えました。
「何で、それを掃除時間から早く言わないんですか」
水戸先生の目の色が少し変わり、声色を聴いて、クラスのみんなは咄嗟に「あ、これは怒られている」というのが分かりました。
水戸先生は今年度から赴任してきた30歳の男性の先生です。小学5年の私達から見たら30歳はだいぶ大人なんですが、家庭訪問で先生が帰り、初めて会ったお母さんは家で「若いね」と言いました。続けて「イケメンの先生でしっかりしてそうじゃない。良かった」と言いました。
だけど、7月でまだ3か月しか経ってないですが、クラスのみんなからの印象はあまり良くないです。叩いたりキレたり大声で荒げたりはしないのですが、何かにつけてとことん追求するのです。その時の表情がまたすごく分かりやすくて、眉をひそめて眉間に皺が出来たり、目が細くなったりして、怖いのです。
「まず先生に報告してくださいね。いいですか」
「はい」
「荷物はあるの?」先生が敬語からタメ口になりました。
「全部あります。引き出しに教科書とかも入ったままです」
花山さんが隣の席の中森さんの引き出しを確認してそう言いました。
「昼休み、誰か遊んでないのか中森さんと」
先生が教卓に手をつき、前のめりになってみんなに訊ねました。
「確か、みんなでケイドロした時、いたよな」
「人数多すぎて分からないけど、でも確かにいたような気がします」
男子勢が先生に言いました。
その様子を見た先生は「ちょっと保健室行ってきますので、その間に教科書開いて予習でもしておいてください」と言い、出て行きました。
先生が出て行って少しして、また教室内はざわざわしだしました。
中森さんは4月からやってきた転校生です。水戸先生と同時期にやってきた男子生徒で、正直これといった特徴が無い人です。特別スポーツが出来るわけでもないし、明るくてお喋りでもないのです。だからといってすごくおとなしくて、一人でいるわけでもないのです。昼休みとかも積極的にみんなとドッジボールとか鬼ごっことかやっているのに参加もしていました。
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