遺失物相談係の女

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 出勤して、自分の部屋に入ると、席に座って、ゴム紐を出し、髪をささっとポニーテールに束ねる。これで眼鏡をかけると、我ながら有能そうな女に見える。と思う。  遺失物相談係は、一人ずつ個室を与えられている。相談内容がプライバシーに関わることもあるからだ。しかし、ひとつひとつはごく狭い。窓もない。殺風景で絵も花もない。もっとも、この簡素さも、事務的な有能さの証のようで、わたくしは気に入っている。  コンコン、とノックの音がした。今日、最初の相談者である。わたくしは、「どうぞ」と声を掛けた。
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