0人が本棚に入れています
本棚に追加
わたくしはデスクの分厚いファイルを拡げた。
このファイルには拾得物の報告が綴じられている。二時間に一度、新しい書類が送られて来るので、それを追加して綴じる。落とし主に返却されたものは抜いて、別のファイルに綴じる。こうして更新していくのだが、今日はまだ始業したばかりだから、昨日のままだ。
しかし昨日、この子の落とし物が拾われた報告を見た覚えはない。だから、ムダだとわかっているのだが、わたくしは男の子の無遠慮な視線を避けるため、ファイルに目を落とした。
「場所の心当たりは?」
男の子は肩をすくめた。「いつもとおんなじさ」
「ロンドンね」
わたくしはロンドンの項を開いた。
「いつもとおんなじ、お屋敷ね?」
「そう。いつもとおんなじ、どっか金持ちのお屋敷の、二階の子ども部屋」
「……ないわ」
ロンドン――お屋敷――子ども部屋で調べてみて、わたくしはパタンとファイルを閉じた。埃が少し舞った。
「ちょっと、ちょっと、簡単に諦めすぎ」
男の子は不満そうに口を尖らせた。
「こないだは、お屋敷の裏の路地で見つかったよ。子ども部屋じゃなくて」
「そうね」
素直に、ロンドン――お屋敷――路地で調べてみる。
やはり、拾得物の報告はない。
「ありませんよ」
「ちぇ」
男の子は言った。親のしつけを問いたいが、この子に親はいない。
最初のコメントを投稿しよう!