遺失物相談係の女

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 わたくしはデスクの分厚いファイルを拡げた。  このファイルには拾得物の報告が綴じられている。二時間に一度、新しい書類が送られて来るので、それを追加して綴じる。落とし主に返却されたものは抜いて、別のファイルに綴じる。こうして更新していくのだが、今日はまだ始業したばかりだから、昨日のままだ。  しかし昨日、この子の落とし物が拾われた報告を見た覚えはない。だから、ムダだとわかっているのだが、わたくしは男の子の無遠慮な視線を避けるため、ファイルに目を落とした。 「場所の心当たりは?」  男の子は肩をすくめた。「いつもとおんなじさ」 「ロンドンね」  わたくしはロンドンの項を開いた。 「いつもとおんなじ、お屋敷ね?」 「そう。いつもとおんなじ、どっか金持ちのお屋敷の、二階の子ども部屋」 「……ないわ」  ロンドン――お屋敷――子ども部屋で調べてみて、わたくしはパタンとファイルを閉じた。埃が少し舞った。 「ちょっと、ちょっと、簡単に諦めすぎ」  男の子は不満そうに口を尖らせた。 「こないだは、お屋敷の裏の路地で見つかったよ。子ども部屋じゃなくて」 「そうね」  素直に、ロンドン――お屋敷――路地で調べてみる。  やはり、拾得物の報告はない。 「ありませんよ」 「ちぇ」  男の子は言った。親のしつけを問いたいが、この子に親はいない。
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