遺失物相談係の女

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「それにしても、こう同じものを落としてばかりいるのは、どうしてですか?」  わたくしが言うと、男の子は、え、どうしてって言われてもと首を傾げた。 「最初に落とした時、もうこういうことがないようにって、ちゃんと縫い付けてもらったんでしょう?」 「そうだよ。ほんとはまず石鹸でやってみたんだよね。でも、全然ダメで。そしたら見かねて縫い付けてくれたんだ」 「あの時は確か犬が……」 「そうそう、あの犬! うるさく吠えやがってさあ。あいつが俺に噛み付いて離さないから、落ちちゃったんだ。俺がうっかり落とした訳じゃないんだよ!」 「でも、それ以降度々落とすのは、犬のせいではないでしょう?」 「う……うん、それは、まあ」  わたくしは別のファイルを開いた。そちらには相談者との面接記録が綴じてある。男の子の過去の相談をチェックした。「次に落とした時、その家には犬はいませんでした」 「擦り切れたんだよ、きっと。だって、縫い付けてから大分経ってたし、そしたら糸も古くなるじゃん」 「見つかった後は、どうしたんですか? もう一回縫い付けた?」 「いや、今度はノリでちょちょっと」 「ノリですか?」 「あ、でも、なに、瞬間接着剤っての? あれ、すごいよね。ビターッとくっついてさぁ」 「そうですか、瞬間接着剤、そんなにすごいですか」わたくしはにこりと笑った。「なら三度目はなかったはずでしょう? でも、その後もあなたは繰り返し落としていますね、自分の影を!」
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