遺失物相談係の女

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 男の子はぐっと詰まった。少しうなだれたが、眼は相変わらず反抗的に光っている。 「ミスター……」  子どもであっても相談者のことはちゃんと尊称をつけて呼ぶように規則で決められている。特に今年度は、『愛される遺失物相談係』が方針なのだ。わたくしは、書類で男の子の名前を確かめてから言った。 「パン」 「そんな堅っ苦しい呼び方……」ミスター・パンは苦笑した。「いいよ、ピーターで」  だが、わたくしは呼び方を変えなかった。 「いいえ、ミスター・パン、わたくしが思いますに、あなたはわざと影を落として来るのではないでしょうか?」 「わざと?」ミスター・パンは、それこそわざとらしく、大きな眼を見開いた。「そんなバカなやついる? 自分でわざと落し物するなんて!」 「います、わたくしの目の前に」 「嘘だい! どうして俺が……」 「次のウェンディーを見つけるためでは?」  ミスター・パンは、唇を噛んだ。図星らしい。 「初めて影を落とした時、ウェンディーが縫い付けてくれた。そしてあなたは彼女と、彼女の二人の弟をネバーランドに招待し、楽しい冒険をして暮らした。でも、時が経ってウェンディーは家に帰ることになった。その後、あなたはもう一度彼女のところに行っていますね? そうしたら……」
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