+月ノ夜本編+【試す?】

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+月ノ夜本編+【試す?】

「お前、喫茶店やってもいいぜ? オレが許す♪」 「……はぁ?」  ソファに腰掛けて。涼介の淹れてくれたコーヒーを一口飲んでから、オレが笑顔で告げた言葉に。  涼介は、ぷ、と吹き出しながら、けれど嬉しそうに微笑む。 「そんだけうまいて言うてくれてるん?」 「うん。言ってる」 「おーきに」 「おう」  クスクス笑いながら、涼介はオレの隣に座ると、自分もコーヒーを啜った。 「――――……せやけどあかんで、多分」 「ん? 何が?」  聞き返すと、涼介はふ、と笑って。 「瑞希以外の奴に入れたいて思わんから。 すぐ店、潰れてしまうと思う」 「――――……」  きょと、と目を見開いて。 それから、オレはぱちくり瞬きをしながら、涼介から瞳を逸らした。  え。  ……えーと。……  なんか、さらりと、なんか、言われたような……。  そのまま黙ってるオレに、涼介はプッと笑う。 「とにかく、オレは瑞希がうまいて言うてくれんのがいっちゃん嬉しいて事」 「――――……」  辛うじて何となく頷いて、オレは一旦外した視線を、涼介に戻した。 「……お前、さ」 「ん?」 「……昼間、お前、ちょっと怒ったけどさ」 「……?」 「どうしても不思議だから、聞きてぇんだけど」 「何や?」  コーヒーを目の前のテーブルに置いて。涼介に向き直る。 「……お前、ほんとにモテるのにさ。どうしてオレの事なんか好きって言うんだ?」 「何でって…?」 「――――……うん…… オレ、男なのに、なんで?」 「んー……」 「ほんとはさ、お前、女の子が好きだろ?」 「んー……うーん。まあ……男は瑞希だけやと思うけど……」  涼介は少し唸りながら、コーヒーをテーブルに置いて。  それからまっすぐオレを見つめ直した。 「男なのに何でとか言われたら、なんて答えたらいいのか分からんけど……瑞希の事はずっと好きやねん」 「 ――――……」 「瑞希を好きやと思うトコ、いくらでも上げられるし――――……何よりオレ――――……お前に触りたいて思うねん。……誰にも、触らせたくないとも、思うし」 「……さわる……?」  オレが、更に不可解そうな顔を見せると、涼介は苦笑い。 「……――――……」  何か言いたげな顔をした涼介に、オレが首を傾げると。  困ったような顔をして、涼介が、息をついた。 「瑞希」 「……ん?」 「――――……はっきり、言うとく。お前、考えてなさそうな気がするから」 「……? なにを?」 「恋愛対象、て言うたけど……それは、性欲っちゅーか……とにかくそういう意味で、お前に触りたい、ていうのも、入っとるからな?」 「……は?」  ぽかん、と口を開けた後。  真っ赤になったオレに。  涼介はもう一度、ため息をついた。 「……やっぱ そこまで考えてへんよな……」 「……あ、あ……っ……ったりまえ、だろ」  青くならずに赤くなる自分。  ――――……心のどこかで、おかしくないだろうかと思うけれど。  ……でも、これが素直な反応で。  涼介の言葉に赤くなったまま、言い返すと。 涼介は、更にもう一度。深い深いため息とともに。 「…………あんなあ……」  言いながら、涼介が頭を抱えてしまった。 「……なんだよ??」  身構えつつ聞いたオレに、涼介は顔を上げて、それから、一気に話し出した。 「今まで通り、一緒に飯食って話して遊んで、とにかく、ずっと一緒に居るっちゅう、それ続けたいだけやったら、オレはわざわざお前に好きやて言うてへん。分かるか?」 「……」 「ただ仲良うしたいだけなら、もうとっくに叶っとるやん。……恋愛対象、て言うたやろ、オレは」 「――――……」 「今までの関係だけで満足できんかったから――――……伝えたんやで。 そこも込みで、考えてや」 「――――……」  しばらく言葉も出ないオレに、涼介は苦笑いを浮かべて。 「……驚かせて、ほんま悪いとは思うてる。堪忍な、ほんま」  言われた優しい口調の言葉に、はっと我を取り戻す。  オレは恐る恐る、聞いてみる事にした。 「――――……お前、オレと……、そゆこと……してえの?」 「 ――――……」  じっと、オレを見つめ返した後。  涼介は、一瞬、オレから目を逸らして。 それから、苦笑いとともに、もう一度オレの瞳を見つめて。 「……それだけがしたいからって言うたらそれは、違うんやけど…… したくないて言うたら、嘘になると思う」 「……………………」  言葉も、出ない。  どうしたって、想像が付かない。  キスしたり? ……男同士で、抱き、あったり、て事???  オレが。 ……涼介、と?? 「――――……あの……」 「ん?」  喉が渇いて。  ……なんか、はりついて、声がかすれる。 「………とても、考えられ、ねえんだけど」 「……考えられへんて?」 「嫌とか、そういうんじゃなくて……自分の事として、考えられない」 「――――……なんで?」 「………なんでって言われると、よく分かんねえけど……」  しばらく、2人とも無言になる。  どちらも何も言わずに。 ……言う事が出来ずに。  どれだけ沈黙が続いたか。  涼介がため息をつきつつ、こう言った。 「……なら、してみよか」 「……え??」  その言葉の意味が分からずに、まっすぐ顔を合わせると、涼介が苦笑いしつつ、オレを斜めに見やる。 「考えられへんのやろ? 実際してみるのが一番なんやない?」 「――――……」 「今ちょっと近寄って、唇くっつけば、キスになるやろ。考えられないとか言ってられへんよな?」 「……」  答えられずにいるオレに、すぐに、涼介は大きなため息をついた。 「――――……ちゅうのは冗談やけど。 ……どないしたら分かってくれるんか、それはわからへんなぁ……」  どしたらええんかなぁ……と、呟く涼介。  ――――……試してみる??  最初、何言ってんだ、こいつ……とは、思った。  だけど…… 少し、考えてみると。試してみよう、というのに、ちょっとだけ賛成だった。  ぜっっったいに何が何でも、キスされたくないほど、別に涼介の事、いやじゃない。  ……ていうか、別に、キスくらいなら、大した事じゃねえし。  それにこいつだって、キスしてみたら、やっぱり女の子とは違うって言って、オレの事好きじゃないってなるかも、しれない。  などなど。  色んな理由に後押しされて、ある結論に至ったオレは、涼介を見上げた。 「いいぜ、試そう」 「……」  最初自分で言ったくせに、オレがそう言うと、涼介は一瞬、ポカンと口を開けた。 「は?」 「だから。 試してみようぜ?」 「……は?」 「……お前が言ったんじゃんか、試してみるのが一番早いって」  言ったオレに、涼介は黙ったまま、首を傾げる。 「瑞希??」 「うん?」 「……オレが試そう言うたんは、キス、やで?」 「……? 分かってるけど?」 「………試すって、キスするって事やで?」 「うん。 そういう意味、だよな? 分かってるけど……?」 「――――……」  涼介は口元に手を当てると。  オレから視線を逸らして、そのまま固まってしまった。
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