今夜はリモートでそっとごめんね

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「やっぱり、今年の夏は帰省しないから」    娘からの報せがあったのは、二週間前だった。孫の翔太が「しょうちゃんのびーる」と呼ぶ、クリアタイプのりんごジュースをケースで注文し、冷蔵庫に冷やして準備していたところだった。楽しみにしている孫の成長を直接見られないのはとても残念だけれど、このご時世、しかたがない。  ここ数日「オンライン帰省」とやらを試しているけれど、我が家の通信状況が悪いのか、端末のOSが古いせいか、何度も会話が途切れ途切れになったり、同時に話すとお互い譲りあったりしてしまって会話のテンポが合わず、実際盛り上がったのは最初だけだった。けれど翔太が面白がって毎日せがむらしく、寝る直前のタイミングでこうして毎晩、ビデオ通話をしている。 「ねえ、そっちのWi-Fi環境、もうちょっとマシなやつにできないの? もう翔太寝る時間だから、切るよ」  映像は固まったままだが、翔太の後ろにいた娘の声だけが聞こえた。 「え、ちょっ、ちょっと待って……あ」  もたもたしているうちに、ビデオ通話が強制終了された。あーあ、もう。どうしてあの子は私に対していつもああいう、つっけんどんな話し方をするのかしら。昔は、すごく母親思いの優しい子だったのに……。  エアコンを止め、窓を開ける。湿った夜風がもわりと部屋に入ってくる。いったん息を大きく吸って吐き、琥珀色の液体を喉にぐぐっと流し込む。  離婚したのは、娘が小学校五年生のときだった。
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