5人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
あのときの、娘の言うとおりだった。
娘と会話していたとき、主にしていたのは私の考え、私のこと。娘が今日まで何に悩んで、何に喜んで、何に悲しんでいたのか。私は、彼女の本心を、なにも知らない。わかってない。いや違う、わかろうとしてこなかったんだ。「私の言うとおりにしていれば、あなたは大丈夫」と、娘からの話を聞く時間を持っていなかった。自分たち親の都合で離婚したのに、娘の許容に甘えて、いつの間にか彼女を私の人生に都合よく合わせるよう、仕向けてしまっていたんだ。
思い返せばあの日以来、娘は私に感情をぶつけることはなくなった。大学も就職も手堅いところを自分で選び、まさに私の理想通りになってくれたので満足していた。結婚を決めたのは事後報告だったけれど、相手は同じ大学の先輩で、あの子の父親とは正反対の穏やかで優しい男性だ。
私はそれらを全部、自立と勘違いしていた。あの子は、私の理想の範囲で生きることを優先するあまり、いろんな思いを自分の中に飲み込んで、隠していたのかもしれない。だから、私に対して心理的な距離をおくことでバランスを取っていたのかもしれない。きっとそうだ。
バカな私。どうして今まで気づかなかったんだ、どうして今ごろになって気づいたんだ。ほんと、ダメな母親。
娘と話そう。
今からじゃもう、遅いかもしれない。それでも。
今のあの子の話を、彼女自身の話をいっぱい聞いて、たくさんのことを知らなくちゃ。私の人生に残された時間が、あとどれくらいあるかわからないけど、今までのぶん、少しでも娘孝行をさせてくれないだろうか。
タブレットのビデオ通話アプリを再び起動させ、娘のアカウントを呼び出す。十一回めのコールで、繋がった。
最初のコメントを投稿しよう!