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Elizabethの記憶(FANBOX用短編)
クリスマスが嫌いでした。
理由は様々ですが、一番は、家族を思い出すからです。
でも、夫はクリスマスが好きでした。
家族で楽しく過ごせる日だから、と、言っていました。
夫は「家族」に憧れがありました。
ワタシも、「家族」に未練がありました。
二人とも、失った側だからでしょう。
夫は戦地で心を壊していましたが、私も、夫自身も、それに気が付きませんでした。
周りがどれほどワタシを哀れもうとも、夫を蔑もうとも、ワタシは知っています。
彼は優しい人でした。
優しさゆえに、過ちとも取れる行いをしました。
彼は救済者でもあり、殺人者でもありました。
金銭を得て、安楽死を行っていたことを……ワタシは、間違っていたとは言いきれません。
それでも、大罪と判断されるのも仕方のないことでしょう。
分からない者には、決して分からないほどの「生」の苦しみを、我々は抱いていました。
けれど、分からない立場でいる方が幸福なのも事実です。
ワタシは他人の不幸を喜びません。……いいえ、喜びたくありません。
ワタシは地獄から生き延びました。
彼も地獄から生き延びました。
けれど、地獄は、どこまで行っても地獄でした。
ワタシが抱いたのは、きっと、愛ではありませんでした。
ワタシは誰かを愛せるほど強くなかった。
それはきっと、あの人も同じだったのでしょう。
ワタシも、彼も、救われたかったから縋りついただけ。
救われたかったから、希望が欲しかっただけ。
壊れかけたか弱い魂が、希望を求めて傷を舐めあっただけ。
新たな命に希望を託したのも、今思えば、過ちだったのかもしれません。
けれど……それでも、夢を見てしまったのです。
ごく普通の夫婦として、ごく普通の家族として、笑いあう日を、夢見てしまいました。
ワタシ達は子を成すべきではなかったのかもしれません。
ワタシ達は希望を求める資格などなかったのかもしれません。
子を不幸にしただけの、親失格の存在と言われても、何も間違ってはいないでしょう。
ええ、ワタシは後悔しています。
わが子が苦難の生を歩むようになったことを、心の底から悔いています。
ああ、でも、「生まれて来なければ良かったかどうか」をワタシが決める権利などありませんね。
それは、あの子が決めることです。
苦痛に満ちた生を幸福か不幸か決めるのは、親ではありません。本人のみが決められることです。
レヴィ。愛しいわが子よ。
アナタにはつらい想いをさせました。
アナタの父は本人すら知らないうちに限界を迎え、死に至りました。
壊れたワタシがアナタに強いた苦しみも、今ならば理解できるつもりです。
母として謝ることも、そばにいることも、ワタシの自分勝手でしかありませんが……ワタシにも償いの機会を与えてくれたこと、とても感謝しています。
愛しています。
アナタの幸福を願っています。
アナタの切なる想いが、より良い未来へ向かうことを信じています。
私には祈ることしかできませんが、どうか、暗闇に差した光明の先が、幸多きものでありますように。
そして、いつか。
いつか、親子として笑い合える日が訪れるなら……それが、赦されるなら……
……いいえ、胸に秘めておきましょう。
今の私に、それは過ぎた願いです。
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