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「いつもこの時間にこの駅使うの?」
同い年と知って緊張が緩んだのか、今岡さんは湯気の立つホットチョコレートで両手を温めるように持ち、敬語の抜けた言葉で質問してくれた。
「いや、この駅は使うけど、今日は担任に呼び出されてて…… 普段はもっと早い時間に使ってる」
「呼び出されてたって事は…… さては青田君、何か悪い事した?」
少し意地悪な笑みを浮かべ、今岡さんは首を傾ける。ヤンキーとかと真逆に位置する自分がこんな事聞かれる日が来るなんて。それも今岡さんに。
「そ、そんな事してないよ」
「ふふ。冗談。だって西高って頭良い所でしょ? それに、なんか声が…… 知り合いに似てる」
『それに、なんか声が『足立 青空』って名前に似合うぐらい――』
栗色の瞳をふわっと細めながらどこか懐かしそうに言う今岡さんに、一瞬でデジャブと嘘がバレる怖さを感じた。
もしこの嘘がバレればどうなるか。今岡さんにはチビでデブで、更には嘘吐き男と思われてしまう。それだけは絶対あってはならない。
「よ、よくある…… 声なのかな……」
乾いた笑いを浮かべながら、どうにか誤魔化す。しかし、今岡さんは「そんな事ないよ」と更に追い打ちを掛けてきた。
「勿論、良い意味でね。凄い良い声してるなと思って。何ていうか、優しさが表れてるっていうか。青田君って、何があってもやり返したり、人の嫌がる事し無さそう」
「…… あ、ありがとう」
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