13人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
真剣に褒めちぎってくれる彼女に、これ以上返す言葉が見つからない。ここは『そんな事ない』と否定するべきだったか?
でも、お世辞だったとしても、今だけ馬鹿になって信じさせてほしい。
褒めてくれた彼女を凝視する事が出来なくて、咄嗟に視線を逸らした時、顔の赤い自分が窓ガラスに映った。
きっとこれは少し鬱陶しい程効いている暖房のせいだ。多分。
けれど、そんな自分がくっきりと窓に映ったのは、外が暗くなり始めているから。それだけは誤魔化せない。
「あ、えっと……」
『そろそろ時間大丈夫?』
その一言が彼女の柔らかい笑みのせいで上手く出てこなかった。
今日、偶々彼女はこの喫茶店に寄ったから会えたものの、次会えるかなんてわからない。
だから、もう少しだけ。
そんな考えを振り払う様に、ホットチョコレートを流し込む。目が見えない今岡さんを夜道帰す訳にはいかない。
「ぞ、ぞろそろ、時間大丈夫?」
湯気が立っているのを一気に飲むもんじゃなかったらしい。喉の奥のひりつきが責め立てる。
それでも振り絞りながら訪ねた俺に、今岡さんは「あ、もうそんな時間だった?」と栗色の瞳をぱちくりと瞬きさせた。
「ここに入るのも時間遅かったしね。話してたらあっという間だったな」
そう満足気に微笑むと、今岡さんもホットチョコレートを飲み干す。
その姿に一瞬彼女の喉が心配になったが、彼女はケロッとしたまま、隣に置いてあるリュックを自然な動作で背負って見せた。
これだけ見れば、まるで目が見えている様だ。けれど、近くに立てかけてあった白い杖がそうじゃないと主張する。
最初のコメントを投稿しよう!