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「私、2番ホームだから、ここでお別れだね」
「そう…… だね……」
ホームに上がる階段前。するりと抜けた今岡さんの腕の代わりに、冷たい風が体の横へ纏わりつく。
「あ、あのさ…… もし……」
『間もなく、2番ホーム、普通○○行きの電車が参ります』
「あ、ちょど電車来た」
モタモタしていた自分の声を軽快な音楽とアナウンスが遮った。そして、今岡さんの気も簡単に奪っていく。
「今日は本当にありがと! 楽しかったし、助かったよ」
そう少し急いで今岡さんは礼を言うと、カンカンと音を鳴らしながらホームへと向かっていった。
きっと、咄嗟に伸ばした俺の手なんて、彼女は一生気付く事無いだろう。
「……はぁ~」
遠のいていく栗色の髪を見送った後、今日1日の羞恥心と不甲斐なさと、その他諸々が一斉に吐き出された。
気付けば勝手に足の力が抜けて、その場にしゃがみこんでいる。何やってんだろ。本当に。
「『じゃあね』も言えてねー……」
『きっと今の自分なら、今岡さんと話してもあんなに挙動不審にならないだろう』って? そう言ってた今朝の自分に言いたい。
そんな甘くねーよ、ばーか。
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