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地下鉄まで知らないおばあちゃんを送り届けると、「ありがとう」と更に腰を屈めてくれた。
「態々ここまで案内してくれて大丈夫だった? 誰かと待ち合わせとか……」
「いえ、ただあそこで時間潰してただけなので」
言った後にただの暇人だと思われそうでちょっと後悔した。いや、時間を無駄にしてるのはわかってる。高校2年の冬、もっとやるべき事あるだろう。
けれど、小柄なおばあちゃんは優しい笑顔で「そう」と言うと、これ以上の質問はしなかった。
「寒いから風邪ひかない様にね」
そう優しい言葉を置いて、おばあちゃんは地下鉄の改札へと消えて行く。人の為になれたんだ。無意味な時間では無かったかもしれない。
良い最後の日だった。そう思って踵を返そうとしたその時。
「あの……」
そう後ろから声を掛けられた。甲高いけれど、芯の有る凛とした声に。
でも、今岡さんは目が見えないんだから、俺を見つける事も声を掛ける事も出来る訳が無い。
変な期待は捨てよう。そう考えながら振り返ると、そこには白い杖を持った女性が立っていた。
「え、今岡さん……? 何で?」
「やっぱり! 青田君だった」
そう俺とは違う名前を呼び、栗色の瞳をきらりと輝かせながら三日月型に細くなる。
そうだ。彼女にとって俺は『青田 こーき』で『足立 青空』ではない。嘘を吐いてなければ、きっと昔チビデブだった同級生に声も掛けなかっただろう。
その筈なのに、何かが胸にのしかかる。
「実はホットチョコレート飲みたくてこの駅降りたんだけど、地下鉄の改札出た瞬間、何か感謝されてる会話聞こえてきて。その中に青田君みたいな声があったから。違うかったらどうしようと思ったよ」
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